みんなの活動:これまでの活動報告

食料・農業・農村基本法改正に関する意見を国に提出

持続可能な社会の実現と食料安全保障の確立に向けて

2023.04.11
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消費者の立場から東都生協・風間理事長が発言

2023年3月29日午後、農林水産省にて食料・農業・農村基本法検証・見直し検討に関わる意見交換会が開催され、東都生協から風間理事長など役職員が出席。食料・農業・農村基本法見直しへの意見(PDF)を提出しました。

同法は理念法ともいわれ、農政の基本理念や政策の方向性を示すものです。

今回の意見交換会は全国有機農業推進協議会などの呼び掛けで開催され、全国の生活協同組合や有機農畜産業・自然栽培団体、環境保全団体、学者・研究者などオンラインを含め約180人が出席し、19団体が同法見直しへの提言を行いました。

はじめに同会理事長で東都生協の産直産地・(農)さんぶ野菜ネットワークを設立した下山久信氏があいさつ。同法改正案の2024年通常国会提案に向けた、5年後、10年後の日本農業の再生に関わる内容として、出席者に活発な論議を求めました。

農林水産省から同法検証・見直しに関する検討状況が説明された後、出席した団体・個人より、有機農業・自然栽培など持続可能な農業の推進、生物多様性の保全、種と苗の保全と育成、食育の推進など多角的な観点から、同法見直しに当たっての提言が行われました。

東都生協は消費者の立場から、風間与司治理事長が発言。「50年にわたり生産者と消費者が提携する産直を中心に事業・運動を展開してきたが、昨今の農業をめぐる情勢は、生産者の努力と消費者の理解・支えでは解決できない」とし、食料安全保障の観点から食料自給に向けた国の支援制度、生産・流通・販売・消費のサプライチェーンで再生産を確保しうる適正な価格形成の仕組み作りなどを求めました。

司会の一般社団法人フードトラストプロジェクト代表理事・徳江倫明氏は「誰のため基本法かという視点が必要。1961年の農業基本法は農家を、1999年の食料・農業・農村基本法はサプライチェーンにその対象を広げたが、今回の見直しは『国民のための基本法』として打ち出してほしい」と締めくくりました。

東都生協は、国民の命と暮らしに必要不可欠な食料を守り、食を支える農業の持続的な発展を目指す立場から、同法見直し論議の動向を今後も注視し、持続可能な社会の実現と食料安全保障の確立に向けて、国への働き掛けを強めてまいります。



東都生協の「食料・農業・農村基本法見直しへの意見」全文(PDF)はこちら

2023年3月20日
食料・農業・農村政策審議会 会長 大橋 弘 様
食料・農業・農村政策審議会 基本法検証部会 部会長 中嶋 康博 様
東都生活協同組合
理事長 風間 与司治
「食料・農業・農村基本法」見直しへの意見


私たち東都生活協同組合は、東京都を中心に25万余の組合員が安全・安心な食料を安定的に手にするために、全国の生産者と共に事業と運動に取り組む消費生活協同組合です。

私たちは1973年の設立以来、生産者と消費者が対等の立場に立ち、生産・流通・消費の在り方を問い直す産地直結を事業と運動の基軸に据えてきました。持続可能な社会を目指して、日本の農業を守り、食料自給率の向上を図ることを目標に掲げ、食の未来づくりを推進しています。日本の農業は、国民の命の源です。私たちに安全・安心な食料を供給する国内農畜水産業は、国土・環境・生物多様性の保全、水源の涵養など多面的な機能を有し、地域経済・社会の維持・発展にも重要な役割を果たしています。

長引くコロナ禍、ロシアのウクライナ侵略および急激な円安により、飼料、肥料、燃料をはじめ営農に欠かすことのできない生産資材が入手困難となる深刻な状況に陥り、食料のみならず生産資材、原料などの多くを海外に依存する日本の脆弱な実態が露呈しました。また、食品の安全、品質向上、適正価格、安定供給、環境保全など、食料・農業への消費者の切実な願いを受け止めて生産を続ける全国の産地においても、後継者育成も含めた持続的な地域農業の発展への懸命な努力にもかかわらず、耕作放棄地の増加や高齢化・人口減少の進行による農村社会の崩壊は止まらず、国内農畜産業は厳しい状況に追い込まれています。

これらの問題は消費者にとっても他人事ではなく、食料の安定供給に向けた国の速やかな支援が必要不可欠だと考えます。食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、健康で充実した生活の基礎として重要です。国内の農業生産の増大を図り、全ての国民が、将来にわたって、安全・安心で良質な食料を適正な価格で入手できるようにすることは国の基本的な責務です。

全ての国民への食料の安定供給の確保と食料安全保障の確立に向けて、私たちは持続可能な国内農畜水産業の確立と日本の農業の再生を心から願うものです。私たちは、国民の命と暮らしに必要不可欠な食料と、それを支える農業の持続的な発展を目指す立場から、現在見直しの論議が進められている「食料・農業・農村基本法」について、下記の意見を提出します。

1.安全保障の観点からの食料安定供給の確保と食料自給率向上に向けた対策強化
食料自給率・食料自給力の問題は、国民の命と暮らしに直結します。昨今の地政学的なリスクを踏まえるならば、担い手や農地を巡る諸課題のみならず、食料生産に関わる資源・エネルギーを含めた食料の自給を国の安全保障の課題としてとらえることが重要になっています。食料自給率目標を長らく達成できなかった原因も厳しく検証しつつ、確実に達成可能な目標を掲げ、そのための具体的な施策を明確にしてください。

2.生産・流通・販売・消費のサプライチェーンでの再生産を確保しうる適正な仕組み作り
国内生産者の後継者・担い手不足は、市場価格の変動によって生産者の農業所得が安定しないことが大きな理由として挙げられます。とりわけ、生産者は昨今の飼料や肥料、資材、物流費や人件費の高騰を農畜産物価格に転嫁しきれない状況に直面しています。安全・安心、かつ環境に配慮した生産方法で生産している農畜産物に対して、生産者が再生産可能な適正な価格形成と、安定供給が可能な流通の仕組みを求めます。

3.生産者の農業所得の向上と環境に配慮した持続可能な農業の推進
環境に配慮した持続可能な農業生産の推進は、人や自然に優しく、地球環境と共存し、生物多様性を豊かにします。また、農業の発展は、農村やその景観が持つ人々への癒やしの機能を高めます。耕作放棄地の解消を図る施策、農業支援・補助金の拡充、再生産可能な価格保障・所得補償制度の確立を通じて、日本の環境を守り、気候風土を生かした農業生産を推進し、生産者・流通加工業者・消費者の皆にとって幸せな、持続可能な生産・供給体制の確立を示してください。

4.国民の命、子どもたちの命を守る「未来につながる食」に向けた仕組み作り
次世代を担う子どもたちのために、食の安全・安心を確保し、健やかな食生活が送れるようにすることは、私たちの共通の願いです。そのためには、全ての農産物を環境保全型または有機農産物に転換していくことが重要であり、みどりの食料戦略システムの推進が必要です。そうした農産物の持続的な生産・消費の手段として、公共調達が最も有効です。全国で有機農産物による学校給食が実現できるように、行政と生産者、関係団体が連携した仕組み作りを求めます。

5.食の安全・安心の確保に向けた施策の充実強化
食品の安全・安心は、私たちにとって大きな願いです。食品の安全を守る仕組みとして、生産から消費にわたって問題発生を未然に防止し、悪影響の起きる可能性を低減するためのリスク分析の手法全体を、より充実させてください。食品の安全性を確保するための施策に関する積極的な情報開示・コミュニケーションを図るとともに、リスクを低減するために適切な政策・措置を科学的に検討・実施するリスク管理において、消費者の意見が施策に反映されることを求めます。

6.脱炭素に向けた脱原発・再生可能エネルギーの推進と国内エネルギー自給率の向上
食料の自給と併せて、エネルギーの自給も国民の命と暮らしを守る上で欠かせない課題です。脱炭素社会の実現に向けた、農業や農村のグランドデザインが求められます。脱炭素に向けた農地土壌への炭素貯留や生物多様性を促進する有機農業の推進、エネルギー生産、地域主導の再生可能エネルギーの活用促進・振興、環境保全、生物多様性保全、地球温暖化防止などの施策を進めるための根拠規定を示してください。

7.輸入原料・青果物の残留農薬基準の見直しと表示の徹底
輸入自由化、関税撤廃による日本の農業への打撃は計り知れません。食料の安全性を確保するための規定、遺伝子組換えやゲノム編集食品への規制と表示の義務付け、成長ホルモン剤、成長促進剤投与の外国産牛肉の輸入規制、客観的なデータ・評価に基づく輸入農産物の残留基準値の見直し、食の安全に関する積極的な情報開示の規定追加を求めます。

食料危機と深刻な農業危機が同時に到来し、食と農の価値がさらに評価される時代が来ています。私たちは、将来にわたって食の安全・安心を確保し、食の危機から子どもたちの未来を守るために、今回の「食料・農業・農村基本法」の見直しに当たっては、輸入に依存せず、国産資源で安全で高品質な食料供給を可能とする循環型農業推進の方向性が示されることを強く希望します。

以上