みんなの活動:これまでの活動報告

酪農・畜産集会「みんなDEミーティング」を開催、危機打開に向けた声明を採択

国内酪農・畜産業の未来を守るために、一人ひとりができることを考え、行動する

2023.04.25
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東都生協産直生産者団体協議会・髙橋憲二会長

全国の酪農家戸数の推移をスライドで説明.jpg

全国の酪農家戸数の推移をスライドで説明

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千葉北部酪農農業協同組合で「八千代牛乳」の生産に携わっていた鈴木耕太朗氏

千葉北部酪農農業協同組合 畜産農家・塙(はなわ)健吾氏.jpg

千葉北部酪農農業協同組合 畜産農家
塙(はなわ)健吾氏

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JAつべつ 津別町有機酪農研究会会長
石川賢一氏

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㈱加須畜産 代表取締役・田口和寿氏

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マルイ食品㈱ 鶏肉販売推進課課長
鶴長英俊氏

JAやさと 営業流通部産直課・渡辺泰之氏

JAやさと 営業流通部産直課
渡辺泰之氏

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(有)匝瑳ジーピーセンター 業務部部長
北川義久氏

声明を読み上げる東都生協・川名明子理事と足立センター・森本雄馬センター長

声明を読み上げる東都生協・川名明子理事と
足立センター・森本雄馬センター長

東都生協は2023年4月22日、酪農・畜産の史上最悪の危機に「みんなdeミーティング」を会場参加とオンラインを併用したハイブリッドで開催。全国の産直生産者団体・取引先、東都生協組合員・役職員、生協など約290人が参加しました。(会場:中央区京橋・ビジョンセンター東京京橋 4階会議室)

司会は(農)房総食料センター専務理事・田山修司氏、東都生協・石渡由美子副理事長が担当。「日本の酪農・畜産業を未来に引き継ぐために、生産現場の状況を知って一人一人の行動につなげていきたい」と開催趣旨を説明しました。

東都生協・風間理事長が開会あいさつで「50年にわたり、食と農をめぐる課題に生産者と消費者が協同してきたが、消費者もくらしが厳しい中で商品の価格上昇を支えきれず、農政の対応が求められる。生協組合員がこの事態を理解して声を上げていくために、地域や団体を超えて、食と農の在り方への議論を期待したい」と集会への思いを述べました。

始めに東都生協産直生産者団体協議会会長で千葉北部酪農農業協同組合・代表理事組合長の髙橋憲二氏が報告。

「生産現場の状況は厳しく世の中から見放された気分になるが、消費者の応援が励みになる。2008年の食料・飼料危機に東都生協が開催した緊急牛乳集会を機に海外で穀物生産を学んだことで輸入依存への危機感を抱き、翌年から自給飼料生産を始めた。飼料価格は2020年から高止まりし、酪農家個数は近年急激に減少。2022年8月から急激に離農が進み、千葉県だけでも46戸が離農し、当組合でも6人が経営を離脱した。牛肉・豚肉・たまごなどの生産農家も減少し、米や野菜も生産費を価格に転嫁できず、生産現場はこのままでは持たない」と国内農畜産業の置かれた厳しい状況を説明。

「日本は食料自給率38%と食の大半を海外に依存する中、気候変動などで自給率がさらに下がれば、消費者は買いたくても買えない事態になる」として「適正な価格形成が重要で、安全でおいしい食料を安定供給できる仕組み作りを一緒に考えたい。生産者、消費者が理解し合い、助け合ってこの状況を乗り越えていきたい」と語りました。

続いて全国の産地から生産現場の状況をリレー報告。

千葉北部酪農農業協同組合で「八千代牛乳」の生産に関わっていた鈴木耕太朗氏は「2019年に新規就農したが、台風15号の被災やコロナ禍、ウクライナ侵攻などが重なり、設備の更新や飼料用米への転換など努力を続けてきた。しかしコスト上昇や販売価格の下落などで経営が立ちゆかず、2022年11月に廃業を決断した。今この瞬間にも、先の見えない思いで頑張っている生産者がいると思い参加した。課題を共有して乗り越えていければと思う」と話しました。

千葉北部酪農農業協同組合で産直牛肉「八千代黒牛」を生産する塙(はなわ)健吾氏は、「畜産経営は大変厳しい状況で、要因は飼料と元牛の導入価格の高騰。配合飼料と粗飼料は海外からの輸入に依存し、天候不順による不作や世界情勢に大きく影響を受ける。またこの間の急激な円安は、さらに経営を圧迫している。肥育素牛を提供する酪農家の減少で子牛価格が高騰するなど生産費が大幅に上昇する一方、物価高による消費の落ち込みで相場が低迷し、生産費の上昇分を販売価格で補えない状況にある。畜産経営は食べてくれる人がいなければ成り立たない。皆さまに選んでいただける牛肉生産に努めるので、消費を通じて支援していただきたい」と訴えました。

北海道で「オーガニック牛乳」を生産するJAつべつ 津別町有機酪農研究会会長・石川賢一氏は、「私たちのオーガニック牛乳は飼料の8割を自給しているが、残り2割の輸入飼料が高騰し、仔牛の販売価格が下落。近年は畜産クラスター事業で生産基盤強化のため多額の投資を行う中で経営が圧迫されている」と現状を報告。

石川氏は「政府からは経産牛1頭当たり飼料高騰分が補填(ほてん)されるが、私たちも有機栽培の子実(しじつ)トウモロコシなど自給飼料100%へ向けて取り組んでいる。総耕地面積の10%、40万ヘクタールに及ぶ耕作放棄地での飼料生産や畜産農家と連携などのシステムの構築が求められる」との中長期ビジョンを示し「厳しい状況ながら国産畜産品を支援いただくことが私たちの糧となる。畜産危機が食料危機につながらないように未来を切り開いていきたい」としました。

埼玉・群馬で飼料用米を給餌した産直豚肉「めぐみ米豚」を生産する㈱加須畜産 代表取締役・田口和寿氏は養豚の立場から現状を説明。「国産と輸入は50%ずつの割合が20年以上続いてきたが、近年は輸入が上回ってきた。20年前の1万戸から3,500戸まで減少。廃業も加速する中、豚熱(ぶたねつ)の感染拡大で淘汰(とうた)せざるを得ない状況にある。一番のコストは飼料。2~3年前は売り上げの45%を飼料代が占めていたが、現在では65%まで上昇している。電気代も2倍以上、施設の建築コストも暴騰。さらに養豚農家は減るのは間違いない」と現状を報告しました。

田口氏は同産地の経営努力として、節電と並んで飼料の国産飼料用米比率の10%から30%への引き上げ、「米の精」の3%配合、近隣農家との子実トウモロコシによる耕畜連携の取り組みを紹介。「食べていただけるのが一番の支援」として、「ぜひ『めぐみ米豚』を選んでいただきたい。コロナ禍で休止していた交流も再開していきたい」と語りました。

鹿児島県で合成抗菌剤や抗生物質不使用の産直鶏肉「南国元気鶏」などを生産するマルイ食品㈱ 鶏肉販売部 鶏肉販売推進課・課長の鶴長英俊氏は「鳥インフルエンザの全国流行により1,700万羽を超える鶏の命が殺処分で失われた。当社の産地でも2022年11月以来、全生産羽数の45%となる南国元気鶏4万羽・採卵鶏128万羽が殺処分となった。防疫対策を万全にしても『次の日、鶏舎の扉を開けるのが怖い』との声が出るほど、被害を防ぎきれない状況にある。引き続き産地に関心を持ち、国産畜産物を利用いただきたい」と訴えました。

茨城県で「産直平飼いたまご」を生産するJAやさと営業流通部産直課の渡辺泰之氏は「昔から鶏卵は価格の優等生とされてきたが、価格高騰が連日報じられている。皆さまの体に入る安全・安心な卵を生産するため、毎日、健康な鶏を育てる飼養環境づくりに取り組んでいる。登録商品など組合員に安定して購入いただき、『おいしかった』と言っていただけることが生産者のやる気につながる」と話しました。

千葉県で「産直たまご」を生産する(有)匝瑳ジーピーセンター業務部部長・北川義久氏は「ウクライナ情勢などに伴う相場、為替の問題で飼料価格が約2倍に急騰。昨年10月から発生した鳥インフルエンザによる品薄で鶏卵相場が上がり、量販店の棚から卵が消えた。鳥インフルエンザの発生で、日本から鶏卵が無くなり相場が上がったので、飼料代が高くてもしのげた。しかし殻付き冷蔵卵がブラジルから、液卵がタイから輸入され、国内生産体制が元に戻り相場が下がれば、高くても買い支えていた組合員が市販品に流れるのではないか危惧している。卵を食べて、購入していただけることが、生産者の励みになる」と話しました。

会場からの発言では、参加した他の産直産地・メーカーから「循環型農業による農産物の安定供給のためには、安く買いたたかれることのない『豊作を喜べる仕組み』をみんなで作るべき」「東都生協商品には生産努力に裏付けられた市販品とは違う価値があり、買い支えてほしい」との訴えがありました。

組合員からは「利用を通じて生産者を支えたい。一人でも多くの人に、産地の状況・取り組みや生産者の皆さんの思いを伝えていきたい」「生産者の離農・廃業はすごく残念。こうした事態を防ぐために、東都生協には組合員を巻き込んで行動してほしい」、職員からは「組合員との日頃の接点を通じて、生産現場の実態を理解・応援いただけるように発信していきたい」との発言がありました。

続いて、酪農・畜産の危機打開に向けた緊急対策や安定経営を維持できる制度づくり、食料自給率向上への抜本的対策など内外への行動を盛り込んだ酪農・畜産経営の危機打開に向けた声明を読み上げ、参加者の拍手により採択されました。

最後に東都生協・野地浩和専務理事が「本当に深刻になるのは5年後・10年後で、いま行動を起こすことが重要。今の危機は生産者・組合員の産直の努力だけでは解決できない。私たちの選択が食の未来を創る。生産現場の現状を知り、周りの方と一緒に考え、さまざまな声を聞くことが大事。地域でもこうした場を設け、広げていきたい」と締めくくりました。

今回の集会を受け、東都生協では今後も引き続き、地域で日本の酪農・畜産が置かれている状況や危機打開に向けた取り組みを共有し、私たちの食とくらしを支える酪農・畜産の未来を守るために行動していきます。


東都生協の「酪農・畜産経営の危機打開に向けた声明」全文(PDF)はこちら




酪農・畜産経営の危機打開に向けた声明


私たち東都生活協同組合は、東京都を中心に25万余の組合員が安全・安心な食料を安定的に手にするために、全国の農畜水産業者や製造者と共に事業と運動に取り組む消費生活協同組合です。

気候変動、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵略および急激な円安などで生産資材の価格が高止まりする一方、生産費の上昇分を価格転嫁しきれず離農・廃業に追い込まれるなど、日本の酪農・畜産は史上最悪の危機に直面しています。国は大量の乳製品を輸入し続けながら国内には減産を要請し、生産現場では牛の殺処分や生乳廃棄まで起きています。

このままでは、消費者は国産の牛乳や畜産物を安心して手に入れることができません。自給飼料への転換など酪農・畜産生産者の努力と消費者の理解と支援による自助・共助だけでは、この危機を乗り越えるのは困難です。私たちは、国と自治体に対し生産者への実効性ある支援対策の一刻も早い実施と、持続可能な国内農畜産業の確立および食料安全保障体制の強化を要請します。

「本物の安全でおいしい牛乳を安く飲みたい」「本物の牛乳を生産して酪農の未来を守りたい」という消費者・生産者の共通の願いを原点に、私たちは50年にわたって生産と消費の持続的な関係を築いてきました。食料危機と農業危機が同時に到来した今、いのちとくらしを支える食と農を次世代に継承していくために、私たちは生産者とのつながりをさらに強め、協同して以下の通り行動します。



1.酪農・畜産の危機打開に向けて支援募金に取り組み、国に緊急対策の拡充を強く求めます
国際的な飼料価格・原油価格などの高騰による生産費の上昇により、国内の酪農・畜産生産者は所得が激減し、一刻の猶予も許されない経営危機に直面しています。私たちは安全・安心な畜産物を生産する産直産地の厳しい状況に心を寄せて、支援募金に取り組みます。国内酪農・畜産の持続的発展と国産畜産物の安定供給に向けて、価格が高止まりした場合に機能しない配合飼料価格安定制度の抜本的な見直しや高騰分の直接補填など、即効性のある緊急支援対策を直ちに講じるように国に強く求めます。

2.国産畜産物の安定供給に向けて、生産者が安定経営を維持できる制度づくりを国に求めます
生産者は飼料など生産資材、物流費・人件費の高騰を価格転嫁しきれない状況に直面し、今後も高止まりが継続するものと考えられます。国内酪農・畜産の持続的発展のために、生産費の価格転嫁など、再生産に配慮した適正な価格形成の仕組みを構築する必要があります。乳製品の低関税輸入枠による義務のない全量輸入を停止し、将来にわたって国産畜産物の安定供給を図るために、国内酪農・畜産生産者が安定経営を維持でき、安心して生産できる政策への転換を国に求めます。

3.食を支える生産現場の実情を学び伝え、国には国民理解の醸成に向けた施策を求めます
今の酪農・畜産経営をめぐる情勢は、生産者・消費者相互の努力だけでは解決が図れません。食と農が危機に直面する今、食料安全保障を支える国内酪農・畜産を守ることは国民全体の課題です。私たちは産直産地の声を聞き、生産現場の実情を学び、伝え合い、情報の拡散に取り組みます。国には生産と消費の両面から国民の声を聴き、私たちの食とくらしを支える国内酪農・畜産と国産畜産物に対する国民の理解醸成に向けた取り組みの推進を求めます。

4.国産畜産物を食べて応援し、国には食料自給率向上への抜本的対策を求めます
食料安全保障の観点から、国内で畜産物を生産することは、輸送障害や他国との競合などのリスクが低く、より安定的で持続的な供給が期待できます。私たちは生産現場の窮状を消費者・組合員に広く伝えて、国産畜産物の利用促進を通じて国内酪農・畜産の未来を支えます。国には際限のない市場開放と輸入依存から決別し、食料自給率の引き上げを最優先課題に位置付け、国産畜産物の消費拡大の推進、耕畜連携や飼料作物の生産拡大など、飼料自給率・畜産物自給率の向上に向けた施策の確立を求めます。



2023年4月22日
酪農・畜産の危機に
「みんなdeミーティング」
参加者一同