印鑰智哉さんに聞く「種子から考える、私たちの食の未来」学習会報告
2019年3月15日、日本の種子を守る会・事務局アドバイザーの印鑰智哉さんによる学習会報告(文京シビックセンター)
2019.03.28
講師の印鑰 智哉さん |
会場の様子 |
印鑰氏は、まず地球の歴史、生物の歴史をたどり「地球は微生物の星、微生物と植物の共生により地球上に豊かな土壌が生まれ、生命の栄養・エネルギーが生み出され、生態系が維持されている。そんな豊かな地球が大変な事態を迎えている」と語ります。
第1次世界大戦ごろから化学肥料の活用が始まり、第2次世界大戦後、世界的に「緑の革命」の名の下で化学肥料・農薬を多投する農業が拡大。やがて化学企業が農業生産の在り方を支配し、種子+化学肥料+農薬の3つを1セットで売り込む工業型農業への流れが定着。その結果、化学肥料・農薬が植物と土壌微生物との共生関係を壊し土壌を破壊した、と指摘します。
日本の食卓に欠かせない米、麦、大豆。
種子法(主要農作物種子法)は、安定的に優良な品種の米、麦、大豆の種子の生産を行うため、国・都道府県の責任を規定した法律です。各都道府県では、計画的に土地に合った種子が生産され、安価な価格で生産農家に安定提供され、日本の食料生産を支えてきました。しかし、その種子法が昨年、廃止されてしまいました。
この先、種子が民間企業・多国籍企業に委ねられてしまい、種子の多様性がなくなり、種子の値段が高騰する危険性が出てきています。「今まで国が保護し、農家の方が守り育ててきた種子が脅かされる状況になっている」と印鑰さんは話します。
◇自由なタネがなければ自由な社会は作れない
一方、世界では、20年以上前に「種子の自由」運動が提唱され、世界の小農運動、食の運動に大きな影響を与えていることにも印鑰氏は言及。農業が地球の気候変動を止めることができること、農業は土壌の栄養を回復させ、水害や日照りにも強くすることなどにも触れ、国連は2019年~2028年を小規模家族農業を強化する「家族農業の10年」と定めていることを紹介。「大規模企業型農業推進から小規模家族農業、生態系を守るエコロジーの原則を農業に適用した『アグロエコロジー』への転換こそが解決策」との考えを示しました。
日本でも種子法廃止を受けて、独自の条例で公的種子事業を継続させている自治体も増えています。種子の権利(公共性・多様性)を守る新しい法律の確立など、食を守る取り組みを広げていくことが求められています。
<参加者の声>
- 農家の高齢化、後継者不足の解決策として農業を企業が担っていくというのは正解ではないとよく分かりました。
- 説明が分かりやすかった。ドキュメンタリー映画「種子―みんなのもの? それとも企業の所有物?」の紹介があり、映画も見てみたいと思いました。
- 気候変動にまで影響する農業の大切さや、種がいかにグローバル企業に仕切られているのか。この大変さを報道しない。日本の政策が世界と逆になっていることを知り、ドッキリ。
- 種子法復活に向けて今できることを考えたい。
- 世界の潮流から広く現状の知識を知ることができました。