みんなの活動:これまでの活動報告

くらし
消費者力の向上をめざす取り組みをすすめます。
野口邦和氏を講師に放射能学習会を開催しました

東京電力福島第一原発事故の最新の状況とその影響、対策について学びました

東都生協・新谷安全・品質管理部長があいさつ

東都生協・新谷安全・品質管理部長があいさつ

講師は放射線防護学の第一人者・野口邦和氏

講師は放射線防護学の第一人者・野口邦和氏

客観的な資料を基に分かりやすく説明

客観的な資料を基に分かりやすく説明

参加者からの質問にも丁寧にお答えいただきました

質問にも丁寧にお答えいただきました

2014年7月31日、放射線防護学を専門とする日本大学歯学部准教授・野口邦和氏をお招きして放射能学習会を開催しました(渋谷区・全理連ビル)。テーマは、2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故の収束に向けた課題と食品の放射能汚染の現状。組合員など50人が参加し、放射能の基礎知識や、放射能汚染についての最新の状況とくらしの中での対策について学びました。

はじめに安全・品質管理部の新谷喜久夫部長があいさつ。「東日本大震災は私たちのくらしに大きな影響を与え、大津波で炉心溶融した原発により深刻な事故が発生した。原発事故は収束からはほど遠いが、幸いなことに東都生協の食品から放射性物質はほとんど検出されなくなった」と事故後から継続している残留放射能検査の状況を報告しました。

登壇した野口氏は、はじめに放射能の基礎を解説。「放射能」はある原子がひとりでに別の種類の原子に変わる性質をいいます。1秒間に変化する原子の数から強さを表す単位が「ベクレル(記号:Bq)」。「半減期」は原子数が半分になるまでの時間で、種類によって決まっています。野口氏はこの減り方を、「風呂桶理論」で説明しました。水を張った風呂の栓を抜くと、はじめは圧力で勢いよく排水しても、水が少なくなるにつれ徐々に出方が弱まっていく様子に例えたものです。

放射性原子は、半減期の10倍の時間がたつと原子数(=放射線の強さ)は約千分の一になります。半減期が約8日の放射性ヨウ素131は約80日でほぼ消滅する一方、半減期が約30年の長い放射性セシウム137は長く環境中にとどまり、長く影響し続けます。そこで、人体への影響を正しく評価するために、被ばく線量の単位として「シーベルト(記号:Sv)」が使われます。

福島第一原発事故の概要

続いて野口氏は福島第一原発事故の概要を説明。炉心溶融で放出したヨウ素、セシウム、テルルなどの放射性物質は、事故後の風や雨で一気に拡散しました。その7~8割は海洋に降下。陸上が汚染されたチェルノブイリ原発事故と大きく異なる点です。観測データから「事故由来のセシウムは残存する一方、半減期の短いヨウ素やテルルはほぼ消滅した」として、今後は食品中のセシウム対策や、福島県では人の暮らす街中を優先しての除染が重要になることを強調しました。

一方、ストロンチウムについても言及。福島第一事故由来のストロンチウム90は、セシウム137の濃度に対して約2~3千分の1の割合で放出され、セシウムのような揮発性元素ではないことから事故現場を中心に沈着していると考えられています。しかし事故前の2010年、全国48箇所の土壌を観測したデータから、すでにストロンチウムが一定の濃度で分布していたことを指摘します。

福島第一事故後のデータと比較し、「現在検出されるストロンチウムのほとんどは過去の核実験やチェルノブイリ事故由来。セシウム濃度が1㎡あたり数十万ベクレル以下の地点であれば、ストロンチウムの濃度は問題にならないレベル」とし、「今後は、迅速性・信頼性を重視して、セシウムをしっかり検査していくことが重要」と結論づけました。

依然として事故状態

続いて野口氏は原発事故の最新の状況を解説。事故炉の状態は、循環冷却システムによりおよそ25~35度に保たれ、放出される放射性セシウムも事故当初の約8千万分の1にまで減少しているといわれます。最近では原子炉建屋内の汚染された粉じんが、がれき処理などの際に再浮遊し、拡散することも起きています。

深刻なのが汚染水対策。炉心溶融で溶けた燃料の一部は原子炉圧力容器を抜け落ち、格納容器にまで漏れているとされます。地下水が壊れた原子炉建屋に流入し、建屋地下の高濃度汚染水と混合し汚染水が増え続けているのです。汚染水の総量は60万トンに達する一方、汚染水漏れが相次ぎ、汚染水処理施設「ALPS」も安定稼働しないなど、依然として事故状態にあり、政府が計画する30~40年後の廃炉は容易でない概要が説明されました。

汚染水は福島原発港湾内を通じて外洋にも漏れ出していますが、水産物の汚染が拡大している状況にはないことも説明。水産物について放射性セシウムの基準値超えは、福島県内で1%台、県外ではさらに低く小数点以下で推移していることを、事故後の検査データから示しました。

特にタコ、イカ、貝などは検出限界以下。無脊椎動物は体内に放射能を溜め込む体内機能が無いため、放射性セシウム濃度が魚類に比べて低い傾向にあることが知られています。一方アイナメ、シロメバルなどの底魚や、生物学的半減期が海水魚に比べ長い淡水魚は、生息環境によってはセシウム濃度が下がりにくい傾向にあります。

今後は食品中のセシウム対策が焦点

空間線量率も、半減期や降雨による流出、除染などで低下傾向にありますが、側溝、雨樋下など溜まりやすい場所を調査し、必要に応じて除染していく必要があります。現在では水や空気の放射性セシウム濃度は検出限界以下になっており、内部被ばくを防ぐため食品からの放射性セシウム摂取に気を付ける必要があると述べました。

野口氏は、体内のセシウム測定に有効な「ホールボディカウンター」による検査データを示しました。南相馬市内の病院が子どもを対象に行った調査では、2012年10月以降のデータでは100%が検出限界以下になっていることを紹介。「日本ではかえって、地産地消の文化が薄れ世界中から食料を輸入していること、流通機構が高度に発達していること、また検査体制が徹底していることなどから、チェルノブイリ原発事故の場合と比較しても、内部被ばく線量が抑えられている」と指摘しました。

このほか、実際に食べている食物から内部被ばく線量を測定する「陰膳方式」による調査結果も報告。対象家族に食事を1食分、余分に食事を作ってもらい、数日分を分析して年間の被ばく線量を測定するという方法です。2012年1月には、この方法で一人当たり1日3食合計4Bq、0.023mSv/年と、国の基準(1mSv/年)を大幅に下回る結果が報道されたことを紹介しました。併せて事故由来ではない、天然由来のカリウム40の摂取も少なくないことも指摘しました。

放射性セシウムは、年間1mSvを超えないように、一般食品100Bq/kg、飲料水10Bq/kgなど食品ごとに基準値が設定されています。野口氏は「セシウムは体内に取り込まれると、イオンの状態で脂肪や骨以外に分布し、全身に影響するが、多くは尿として排出される」として、先の「風呂桶理論」の例を出し、「体内に入る量をできるだけ抑え、低い平衡状態を保つことが重要」と話しました。

内部被ばくを防ぐために

野口氏は、内部被ばく線量を下げるために私たちにできることとして、①行政にはしっかり検査させること ②自分で食品中の放射能濃度を確かめ、選んで食べること ③自家栽培の農産物は行政に測定してもらうか、行政の測定データなどから総合的に判断すること―の3点を挙げました。放射能の値が比較的高いのは、きのこ・山菜、淡水魚、福島県沖の底魚、同じく福島県産の鳥獣類の肉、大豆などですが、既に行政から出荷制限などの措置が取られ、流通していないのが現状です。

最後に野口氏は放射性セシウムの基準値そのものについても言及。基準値が設定された設定の前提条件、検査体制や汚染の実態を引き続き検証していくことの重要性を指摘し、講演を締めくくりました。

続いて質疑応答。参加者からの毎日食べている、きのこ、海藻類の汚染状況への質問に対しては、きのこは「生産条件によって検査結果が変わるので、実際に購入された品目について、東都生協の残留放射能検査などを参考に判断してほしい」としました。海藻については、「海水の濃度にもよるが、現状では1Bq/kgよりはるかに低く、福島原発の港湾に一番近い外洋のセシウム濃度でも基準の1/100程度で推移している」と説明。「併せて各県の検査結果も水産庁ホームページを参考にしてほしい」と応じました。

「原子力発電所の設置状況」についての質問には、「沖縄以外の全国にあるが、逃げる必要がある施設を作ってはいけない」「極力再稼働させないために、地元の人を中心に政府と議論していくことが重要」との考え方を示しました。プルトニウムに関する質問には、「80km圏内の土壌測定データからは、避難区域で福島原発事故由来のプルトニウムも見つかっているが、濃度は事故以前の核実験由来のものと同じレベル」として、問題になる状況にはないことを説明しました。

野口先生のお話で、放射能に関する基礎と、事故とその影響、くらしの中での具体的な対処や考え方について学ぶことができました。原発事故から3年半が過ぎようとしている今も、汚染水漏れなど事故収束のめどは立っていません。食品の放射能汚染の実態も、消費者にとって分かりにくくなっているのが現状です。東都生協は今後も、取扱商品の放射能検査と検査結果の公開を続けていきます。また今回のような放射能学習会を通じ、くらしに役立つ情報提供をしていけるように取り組んでいきます。