みんなの活動:これまでの活動報告

憲法学者の木村草太さんを講師に学習会を開催

次世代のいのちとくらしを守るために、憲法について学習

2016.03.07

講師:憲法学者(首都大学東京准教授)木村 草太さん
日時:2015年11月28日 場所:主婦会館プラザエフ(四谷)


参加者176人。開場30分以上前から行列ができ、また年齢層も10代から80代と幅広く、今回のテーマへの関心の高さがうかがえました。講演の冒頭、庭野吉也理事長の「お忙しい中、快くお引き受けいただき感謝しています」とのあいさつに対し、木村草太さんは「自分も東都生協の組合員であり、責務を果たそうと引き受けました」と話され、参加者との距離が一気に縮まりました。

お話は、身近でユーモアあふれる例えを随所にちりばめながら、日本国憲法について分かりやすく解説。また憲法学の観点から安全保障法制についても触れ、「集団的自衛権の何が問題なのか明確に分かった」「日本国憲法を一度読んでみたい」などの感想が見られ、憲法への関心を高める機会となりました。以下、講演内容と質疑応答を抜粋してご紹介します。

講師の木村 草太准教授

講師の木村 草太准教授

会場いっぱいの参加者

会場いっぱいの参加者



◆憲法と立憲主義
いかなる団体にも規約があり、国家という団体の規約が憲法です。立憲主義とは、国家権力の過去の失敗をリスト化し、同じ過ちを繰り返さないための構想です。過去に国家権力が犯してきた三大失敗とは、「無謀な戦争」「人権侵害」「独裁」。

これに対し「軍事力のコントロール」「人権保障」「権力分立」の要素を憲法に盛り込むことで、国家権力が良い方向に使われるようしようという立憲主義の構想に基づく政治が望ましいということが、今日の国際社会でも広く受け入れられています。

◆憲法改正について
このように憲法は、独裁防止や人権保障など大事な内容を持つため、普通の法律と比べて改正手続きを厳しく定めています。2013年前半、改憲手続きを定めた第96条を改正する動きが出た際に、"外国での改憲手続きよりも厳しい" などの議論がありました。

しかし、例えばフランス憲法では、改正できるのは日本でいう内閣法や国会法など統治機構に関わる部分だけで、フランス人権宣言は200年以上変わっていません。

国によって憲法で定める事項が違うため、改正手続きだけを単純に比較することはできません。国家体制の根幹や人権条項をも規定する日本国憲法では、改正手続きの厳しさも自ずと変わってきます。このため、現在では与野党の広範な合意があって初めて提案ができる、総議員の3分の2という発議要件を課しています。

◆日本国憲法の成り立ち
日本が受諾したポツダム宣言は、民主主義を復活・強化し、人権保障を確立することを求めるものでした。日本政府とGHQ(*)との話し合いの中で、ポツダム宣言の条項を実現するには大日本帝国憲法の改正が必要と一致。

そこで日本政府は当時の国務大臣を中心に憲法改正案を作成したところ、この案があまりに保守的なためGHQが草案を作成。それを翻訳していく過程で二院制を置くといった日本政府の希望も盛り込まれ、口語訳の日本国憲法改正草案ができました。そして第90回帝国議会(最後の帝国議会)で、初の男女平等普通選挙のもとで選ばれた議員によって議決されたのです。

*連合国最高司令官総司令部:第二次世界大戦後の1945年から1952年にかけて、日本を占領・統治した連合国の機関。

◆戦争放棄・平和主義
憲法第9条は、戦争の放棄、武力行使の放棄と、軍隊・戦力の不保持から成ります。これだけを見ると、個別的自衛権の行使も9条によって禁止されているように思えますが、歴代日本政府は、人権保障を定めた最も重要な条文「第13条」を根拠に、9条の例外として個別的自衛権の行使が認められるという解釈をしてきました。日本が侵略や攻撃を受けた時に、日本政府には国民を守る義務があるとするのです。

しかし、集団的自衛権の行使を認める根拠となる、外国政府を守る日本政府の義務について定めた条文は、日本国憲法には存在しません。また、政府・内閣は国民が憲法を通じて負託した権限、つまり第73条に列挙された権限しか行使できません。

個別的自衛権の行使は防衛行政として行政権に属し、その責任は政府にあるといえます。しかし、集団的自衛権の行使は外国同士の紛争に介入するのですから、国内作用である行政権には含まれません。

また、外交は他国の主権を尊重し対等の立場で行うものですが、集団的自衛権の行使は他国の主権を制圧・無視して行うものですから、外交にも含まれません。

集団的自衛権の行使は、政府に与えられていない軍事権に当たる行為と評価せざるを得ません。よって集団的自衛権の行使は越権行為であるという理由で違憲になります。


◆質疑応答
Q:自民党の憲法草案についてのご意見をお聞かせください。
A:自民党の改憲草案には、政府の権限を強くして、国民の権利を制限する傾向がありますが、それを望む国民は、復古趣味的なごく一部の人たちのみでしょう。憲法は、国民が政府に守らせるものですから、改正案は国民の間から沸き上がるものでなければならないと思います。

Q:集団的自衛権行使は違憲というルール違反なのですから、訴訟で現政権を何とかできないのでしょうか。
A:日本の訴訟制度では実際に集団的自衛権が行使されない限り、裁判所はそれが合法か違法かを判断できません。私としては行使する前から憲法判断を仰げる訴訟制度を作ろうと呼び掛けているところです。

Q:日本国憲法と日米地位協定ではどちらが上でしょうか。
A:日米地位協定は条約なので、憲法の方が優位です。日米地位協定が憲法違反の形で運用されたり、日米地位協定に憲法違反の部分があれば無効になります。