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「いまこそ! いまだからこそ」憲法学習会を開催

東京都立大学法学部教授・木村草太先生を講師に招き、憲法の平和と人権を学習

2022.07.25

東京都立大学法学部教授・木村草太先生 c岩沢蘭

東京都立大学法学部教授・木村草太先生
©岩沢蘭

2022年7月20日、東都生協は東京都立大学法学部教授・木村草太氏を講師に、憲法学習会を開催しました。

会場の東京都消費生活総合センター教室Ⅰ・Ⅱには、東都生協の組合員など80人が参加。集会型での学習会は約3年ぶりの開催となり、講師のお話が直接参加者に届く、とても有意義な学習会となりました。



憲法は国家権力による失敗を防ぐためのルール

はじめに木村氏は「私たちはさまざまな事で失敗しやすいので、失敗しないように張り紙を貼る。この張り紙の国家権力版が憲法」と分かりやすい例えで憲法が持つ意味を解説しました。

私たちは「       」を失敗しやすい。
なので、 
「        」という張り紙を貼ろう。

つまり、憲法を「近代に入り強大化した国家権力が権力を乱用し犯した3大失敗 ①戦争 ②人権侵害 ③独裁―を防ぐための張り紙。近代立憲主義に基づいて作られた、①軍隊と戦争のコントロール ②人権の保障 ③権力の分立―をはじめ国家権力を制限するための法」だとしました。

続いて木村氏は、日本国憲法の章立てと、第1章から第10章までのそれぞれの特徴を説明。憲法は、その国の国家権力が失敗しやすい事柄についてルールを作り、失敗を防ぐことに意味があります。どの国の憲法にも盛り込まれる上記の3点を含め、日本国憲法は、過去の失敗を踏まえて 「天皇」「戦争の放棄」「国民の権利」「国会・内閣・司法の三権分立」「中央政府から独立した地方自治」などを特徴としています。



改憲論議の焦点は9条2項

「自衛隊と憲法9条」の関係についてのお話。自民党はこれまで、憲法第9条第2項を削除して軍隊と戦力を持てるようにする改憲を主張してきましたが、近年では第2項を残し自衛隊を明記する「明記改憲」を主張。

20世紀半ば以降、国際法では一切の武力行使を原則として禁じています(国連憲章第2条第4項「武力不行使原則」)。日本は過去に侵略戦争という大きな失敗を犯したため、「戦争の放棄」として諸外国と比べ、軍隊と戦力を徹底してコントロールする規定を憲法に設けているのです。

国連憲章の武力不行使原則では、侵略国が現れた場合に備えて、①国連安保理決議に基づく集団安全保障措置 ②個別的自衛権 ③集団的自衛権―の3つの例外を定めています。ロシアによるウクライナ侵攻について木村氏は「このいずれにも該当せず、ロシアの国際法違反は明白」と指摘しました。

「日本国憲法第9条第1項では国際紛争を解決のための武力行使を禁止。つまり侵略戦争の禁止を明文化したもので、現在の国際社会では当たり前の条文で、これには改憲派もほぼ異論はない」としました。

改憲派が問題とする第9条第2項は、戦力や交戦権、軍隊を持たないことが書かれています。しかし、他国の侵略に備えて軍隊を持った場合、指揮監督権の所在は規定されていません。内閣の行う事務、国民が内閣に与える権限を定めた憲法第73条にも書かれていません。こうしたことから「軍事に関する権限は消滅している」「憲法第9条はあらゆる武力行使を禁止する条文と理解せざるを得ない」としました。



憲法9条と個別的自衛権・集団的自衛権

では、第9条に例外はないのでしょうか。政府は、国民の生命や自由を最大限尊重することを定めた憲法第13条を、第9条の例外を認める根拠としています。侵略があった場合にそれを放置することは、国民の生命や自由を最大限尊重する政府の義務を果たさず、第13条に違反することになるからです。

木村氏はこれを「遠足のしおり」に例えて説明。「第9条に『過去にお酒を飲んで酔っ払って迷惑を掛けた人がいるため、飲み物は一切持ってきてはいけません』と書いてある。第13条を見ると『熱中症にならないように水分補給をしましょう』と書いてあって、水を持参しても良いのかどうかが分からない。しかし熱中症対策を考えた場合に『水を持ってきてはいけない』とすることは、明らかに無理がある」。

「同じように、日本が攻撃を受けた場合、憲法第13条を根拠として国民の生命と自由を最大限守るための武力行使は例外的に認められる。したがって自衛隊は置いて良いし、侵略を受けた場合に限り、最低限の武力行使は行って良い、というのが現在の政府の解釈」として「軍事権との関係では、防衛活動は憲法第73条にいう一般行政事務、国内の行政に含まれるものと整理されている」と解説しました。

他方、外国の防衛のために派兵できるのかという点に言及。「侵略国に対して非難声明を出したり、経済制裁に参加したりすることは外交権の範囲で可能だが、軍事活動に関する規定はないため、集団的自衛権の行使や国連軍への参加は憲法違反とされてきた」。

「しかし2015年に成立した安保法制では、存立危機事態に限定して集団的自衛権の行使を容認。憲法第13条により第9条の例外を認める構造は維持されているが、①外国を守ることは規定していない第13条に違反し、違憲となる ②自国が武力攻撃を受けていない段階で、被害国の防衛のために武力行使を行うことは先制攻撃となる」との問題点を示しました。



「自衛隊明記」と「緊急事態条項」の危うさ

続いて木村氏は、改憲派の「自衛隊明記」案や「緊急事態条項」追加案の危うさを、戦前ドイツのワイマール憲法の歴史をたどりつつ解説。

「憲法第9条をそのままで自衛隊を置いて良いとする自衛隊明記案は、先の『遠足のしおり』に例えれば『水筒を持ってきて良い』と書くだけで、その水筒に水を入れて良いかは書いていないようなもの。つまり、自衛隊がどの範囲で任務を遂行するのかを書かなければ意味がない」とし、安保法制の下では「集団的自衛権を憲法に書き込まなくてはならない」との考えを示しました。

しかし、憲法改正の国民投票で「集団的自衛権の明記」を争点にしたくない改憲派は、自衛隊の任務の範囲をあいまいにして真の争点となる「集団的自衛権明記」を隠し、「自衛隊明記」改憲を図る可能性があることに注意を促しました。

緊急事態条項については「感染症や原発事故など緊急事態の行動制限はこれまでの法律でも認められている。現行憲法に緊急事態条項がないから対応できない事態にあるとは考えられず、法改正や政策判断で十分対応できたはず」と指摘。憲法への緊急事態条項の追加には根拠がないことを示しました。

2012年の自民党改憲草案について、木村氏は「政府が緊急事態を宣言すれば、法律を内閣の一存で書き換えられるという内容」としました。第1次世界大戦後、ワイマール憲法下ドイツでの社会不安を背景とした緊急事態条項の乱用が、授権法や議事堂炎上令(大統領緊急令)を経てナチス体制へとつながっていった経緯を解説。「憲法改正の前に、国会での熟議や緊急事態へのさまざまな事前準備の方がはるかに重要」との見解を示しました。

憲法の改正は、国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票によって過半数の賛成を必要とすることが憲法第96条で定められています。国民に誤解をさせて投票に行かせるような、あいまいな説明しか伝えられない可能性があります。

質疑応答での「改憲発議が国会を通って国民投票となった場合、私たちはどう準備すればよいか」の質問に、木村氏は「何が問題なのかを見極めることが大事。必要性がない改憲には流されない構えが大切」と応じました。

「18歳選挙権が実現した今、若い世代に何を伝えていけばよいか」との質問には「投票は、自分のためというよりは、公共の価値を実現するための仕事」との考えを示し、投票の大切さを改めて確認することができました。



私たちが賢く判断し、行動していくためにも、マスメディアが流す情報や伝え方には常に疑問を持ち、情報を深読みすることが大事です。ロシアによるウクライナ侵略などに乗じて、改憲への動きが強まっています。ニュースなどで「自衛隊明記」「緊急事態条項」のワードが出たら要注意。

平和とより良いくらしの実現に向けて、日本国憲法の今日的意義を確認し、守り生かしていく必要があります。東都生協では継続的な憲法学習など、平和を考える取り組みを進めていきます。



参加者からの感想<抜粋>

●世界で起きていることを憲法学の視点から見た解説が、憲法とロシア・ウクライナ情勢の両方を理解できて勉強になりました。憲法改正についてはまだまだ勉強不足なので、これからも関心を持ち続けようと思います。

●過去の歴史を知ればどうするべきか、改憲についてどう考えるべきか理解できる。マスコミの誘導に流されないことが大切。

●投票行動は「個人のためではなく、公共の価値を実現するための業務」という言葉が印象に残りました。

●「憲法とは張り紙」という表現、分かりやすい。この表現で憲法が身近になりました。

●中学生の息子が、社会部に入っており、子どもに頼まれて参加したのですが、私自身、大変勉強になり、さらに憲法について理解を深めたいと思いました。

●憲法について、ここまで踏み込んだことはなく、今の改正について分からなかったことを説明してくださいました。集団的自衛権がよく分かっていませんでしたので、改憲の怖さ(リスク)がよく分かりました。

●分かりやすく解説いただいたことで、ものの見方が変わってしまうことに気付きました。知る機会というのは大事。

●流れるような説明の中に日常のエピソードも織り交ぜてくださり、分かりやすく理解ができました。




[文責:東都生協]