公開監査

公開監査レポート

若い生産者も育っている

山梨フルーツライン

2006年3月14日

 桃の花の小さなつぼみがふくらみ始めた、3月14日(火)、山梨県の桃とぶどうの産地、山梨フルーツライン※1の公開監査が開催されました。公開監査とは産地の品質管理の仕組みを参加者のみなさんで確認すると同時に、産地の特長を理解する場でもあります。約80人※2が見守る中、山梨フルーツラインでは営農塾において若い生産者を育てると同時に、組織として生産をすることで、品質の向上も図っていることがわかりました。消費者と一緒にいい物作りをしていきたいという産地からのメッセージも伝わった公開監査でした。

※1 山梨フルーツライン…主に桃とぶどうを生産する農家の団体で、14年前に取引が始まりました。
※2 参加者内訳東都生協組合員:25人、役職員:6人、他産地:15人、山梨フルーツライン:30人、その他:7人

公開の場で産地の取り組みを確認

スケジュール概要
2006年3月13日(月)

【監査人による事前監査】

監査人による栽培状況の視察

10:30 生産者圃場・倉庫視察
  • 監査人により3人の生産者の畑や倉庫などを視察

監査人…今回は専門家1人、他の産地から1人、東都生協組合員2人、東都生協職員2人の計6人

13:50 事務所での文書確認
  • 産地からの説明を聞いた後、質疑、文書確認
  • 選果作業の確認
  • 公開監査に向けての打合せ
22:00 終了
2006年3月14日(火)

【公開監査】

10:45 開会あいさつ(山梨フルーツライン、東都生協)
10:55 産地からの説明
  • 資料に沿って産地の取り組みを説明
11:45 昼食交流
12:45 事前監査報告・質疑
  • 監査人からの事前監査報告
  • 監査人および会場からの質疑
14:50 まとめ
  • 監査人、山梨フルーツライン、東都生協からのまとめ
15:20 移動・圃場視察
  • 生産者のぶどう畑を視察
16:10 終了
日本一の桃とぶどうの産地 山梨県 ─ おいしい果物作りに最適な環境 ─

 長い日照時間と昼夜の寒暖差、そして水はけの良さ。これらの条件が整った甲府盆地は果物づくりに最適な環境といえます。事実、桃とぶどう、すももについては、栽培面積・生産量とも日本一を誇っています。山梨フルーツラインは、そんな甲府盆地の東北部に位置する山梨市を中心に平坦地、山間地、傾斜地、高冷地とさまざまな特徴ある自然を生かしておいしい果物づくりをしている産地です。

手間のかかる桃・ぶどうの栽培 ─ これはもう丹精込めた作品です ─

 桃とぶどうの栽培について、簡単に説明します。

桃 Peach

  • 収穫が終わったら、次の年の準備が早速始まります。まずは、疲れた木の栄養補給もかねて肥料を与えます。
  • 冬になると、せん定です。前の年に出た枝に花が咲き、実がなるので、どの枝にも日が当たるように全体のバランスを見ながらせん定をします。
  • 春になり花のつぼみが出てきたら、摘蕾(てきらい)といって花のつぼみを摘みます。
  • 花が開くと受粉ですが、品種によっては人工受粉をする必要があります。このとき使用する花粉は摘蕾のときにとった花のつぼみから採取したものを使います。
  • 花が終わり、実がつき始めたら摘果(果実の間引き)を何回かに分けて行います。
  • 山梨フルーツラインでは行っていませんが、一般的な桃の栽培では、実に袋をかけて、成熟する手前で袋を外し、反射マルチといういわゆる銀色のシートを地面に敷くことで太陽の光を反射させ、一気に色づけます。
  • いよいよ収穫、桃の毛が寝始めたら収穫適期とのこと。朝収穫して、その日のうちに出荷します。

ぶどう Grape

3月、温室のぶどうはもう花穂が…

  • 桃の場合と同様に、肥料を与え、せん定をします。
  • ぶどうの場合は新たに出てきた芽から花穂が出て、実をつけます。
  • 芽が出始めたら、芽かきといって、主芽のわきに出ている副芽をとります。
  • 花穂も芽と同様に主穂と副穂が出てくるので、副穂を摘み取ります。
  • 種無しぶどうを作るときには、ジベレリン水溶液の入ったコップに花穂をつけて処理をします。
  • 自然のままのぶどうは房が大きくなりすぎてだらりと間延びしたようになってしまうので、房が少し大きくなった段階で、大まかに形を整えます。
  • 粒が大きくなり始めたら、摘粒といって、実の間引きをします。一房ごと、非常に根気のいる作業です。
  • このようにぶどうは、最終の形をイメージしながら房を整えていくのです。
  • 梅雨の時期になると、病気の原因になる雨にあたらないよう、一房ごとに傘かけをします。そして、一年の努力の成果が表れる収穫を迎えます。
記録を細かくチェック ─ 組織運営が今後の課題 ─

 公開監査では、生産者が東都生協との約束を守って栽培しているかという生産管理と、その生産物が出荷基準に沿って選別され、他と混ざることなく東都生協に出荷されているかという出荷管理について、確認しました。
 前日に行われた監査人による事前監査の報告では「実際の記録を確認したところ、おおむね問題ないが、記録の仕方やマニュアルの整備など、若干改善すべき点もある」とのことでした。専門家監査人からは、組織運営面でのアドバイスがありました。

なぜ、おいしいか ─ 面積あたりの収量を制限 ─

桃 スリーレスピーチ

 山梨フルーツラインの桃は「農薬をなるべく散布しない」「袋がけをしない」「反射マルチをしない」いわゆる3つの「ない」のスリーレスピーチといわれています。
 桃の代表的な品種「白鳳」についてみると、山梨県は10a当たりの収穫量が2,220kgと全国の中でトップです。限られた面積の中で最大の収穫量をあげるために、桃の栽培では、袋がけをし、反射マルチをする方法が一般的ですが、山梨フルーツラインではしていません。
 そのかわり、木全体に光が当たるようなせん定をします。そのおかげで風通しも良くなり、病害虫の発生を抑えられます。面積あたりの収量は減りますが、その分おいしい桃ができるのです。山梨フルーツラインの桃は木の先端から自然に色づき、徐々においしくなっていきます。

反射マルチ…実の袋をはずした後に、銀色のシートを地面に敷くことで太陽の光を反射させ、一気に色づける手法です。

一般の桃畑:木の間が狭く、枝の密度も高い

フルーツラインの桃畑:木の間が広く、枝の密度も低い

ぶどう 房数を制限しておいしさを凝縮

 ぶどうの場合も、面積あたりの房数を制限することで農薬の削減とおいしさを両立しています。密度を低くすることで日当たりや風通しが良くなり、病害虫の発生も少なくなるのです。面積あたりの収量は減りますが、その分多くの面積を管理しています。
 また、収穫時期を少し遅らせて、畑全体の食味がよくなってから収穫をはじめます。

10種類以上ある桃 ─ 自分の好みを探してください ─

 「先週の桃は柔らかかったのに、今週は硬い」「味が先週と違う」「品質不良?」と感じた経験をお持ちの方もいらっしゃるのでは。それは品種の違いによるものかもしれません。桃はだいたい7月から9月まで2カ月以上、品種のリレーでつながっています。その種類はなんと10種類。品種によって硬さや食味が異なりますので、自分の好みの桃を探してみてください。

農薬の飛散を防ぐために ─ ポジティブリスト制度への対応 ─

畑の境にビニールシートでドリフト防止

 食品衛生法では、残留農薬基準より多い農薬が検出された場合、その作物は流通させることができません。しかし、すべての作物、すべての農薬について基準があるわけではないので、基準がない場合はいくら残留農薬が検出されても規制は受けません。そこで、基準がないものについては暫定基準として国際的な基準など当てはめ、できるだけ基準を設定するのですが、それもない場合は、一定量以上残留する場合は流通が禁止されることになります。これをいわゆるポジティブリスト制度といいます。消費者にとっては歓迎すべきこの制度も、生産者にとっては今まで以上に農薬の散布について気を配る必要があります。
 農薬は使用基準どおりに使用すれば、基準以上に作物に残留する心配はないのですが、自分の畑に隣の他人の畑で散布していた農薬が飛んでくる場合があります(これをドリフトといいます)。特に果樹の場合は、下から上に向けて農薬を散布するため、ドリフトの可能性が増すわけです。
 そこで、山梨フルーツラインでは、近隣の畑に農薬が飛んで行かないように、風のある日は散布せず、隣との境のところは手動で散布しています。近隣の畑からのドリフトを予防するために、隣の農家と話をして、山梨フルーツラインで散布させてもらうようお願いする場合もあるそうです。
 また、試験的にビニールシート(写真参照)を境に設置して、その効果を検証しています。

使用基準…農薬には使用できる作物や濃度、使用時期などの基準が決められています。
未来を担う人づくり ─ 営農塾で生産者を育成 ─

ぶどう畑の見学

 山梨フルーツラインでは営農塾で次世代の生産者を育てています。これにはもともと栽培を知らない塾生に一から教えることで、山梨フルーツラインの栽培手法を徹底させることができる、組織として作業することで、品質の安定を図ることができる、という利点もあります。将来的には、独立した塾生がさらに後継者を育てることで、山梨フルーツラインの輪が広がっていくことを狙っているそうです。
 公開監査では営農塾の若い塾生から果物生産にかける思いを語っていただき、山梨フルーツラインの明るい未来を予感させました。
 思いを語った2人の塾生を紹介します。

「フルーツラインと出会えてよかった」

 県立の農業大学校で学び、営農塾に入って4年目の平塚さん。今はやる気満々の彼ですが、子どものころは農業がいやで仕方なかったそうです。それというのも実家が専業農家で、手伝いのために日曜日は友達とも遊べず、農作業で忙しい夏休みはどこにも連れて行ってもらえないため、絵日記を空想で書いていたといいます。
 そんな彼の意識を変えたのが、営農塾での実習でした。農家というと一家総出での作業を思い浮かべますが、ここでは有限会社化することで、組織で農業をしています。自分の理想とする農業がここならできると、自立するために桃とぶどうの栽培について学んでいます。
 夏になると桃の検品も担当している彼は、指の感触と味で品質を見極めるため、収穫期には毎日桃を5個は食べるとのこと。暑さ厳しい夏も、夏ばてするどころか逆に5kg以上も太ってしまうそうですが、それを繰り返すことでカンを養い、一人前のプロになるためにがんばっています。

「ここにくれば農業ができるようになる、自分がそうであったように」

 農家でも山梨県の出身でもない工藤さん。
 今ここにいるのは、不思議な何かが自分を引っ張ってくれたからと言います。
 もともと東京でサラリーマンをしていた彼は、農業をしたくて実家のある岐阜に戻り、働き口を探していました。農業としての求人があるわけもなく、あきらめかけていた頃に知り合いのつてで山梨の桃農家を手伝うことになりました。そこで5年間農作業をしていたのですが、やがてそこは手伝いを必要としなくなり、その農家が探してくれたのが営農塾だったそうです。
 営農塾でまず驚いたのは、畑が多く、作業量も多いこと。それまではのんびりとしていても間に合う仕事量だったのが、管理面積が多いためてきぱきと作業する必要があります。効率よく正確に進めることを学んだそうです。
 今では、一人前の彼ですが、ここに至るまでには農機具を衝突させたり、せん定を失敗し木を枯死させてしまったりと、いろいろと苦い思いをしたそうです。そんなときに支えてくれたのが営農塾のメンバー、今では落ち込むことほどもったいないことはないと、独立めざして日々がんばっています。

参加者の声 ─ 当日のアンケートからの抜粋 ─

今回参加した方にはアンケートを書いていただきました。その中から特徴的な部分を以下に抜粋します。

「無経験の若い方々が農業に甚大な意欲で取り組んでいらっしゃる姿にこれからの農業に希望が持てました」「営農塾という会社組織があることに驚きましたが、塾生の方の話を聞いてこういうやる気のある人をじっくり育ててくれる組織があるのは心強いと思いました」「果物を作ってから食べ終わるまでのプロセスをもっと語り合おうという提案(提言)に共鳴しました」「くだものは季節の天候にも左右されるものでもあり、産地にむだなく組合員においしく供給出来る流通システムの改善が必要と思えた」「マニュアルや文書化、資金力などの弱点が指摘されたが、徐々に改善しつつ、今年も来年もおいしい果物をお願いします」「関係書類の展示等、もう少し工夫が欲しかった」「昼食時、生産者の方々とお話できる環境を作って欲しかった」 「とてもわかりやすくて、皆さんの質問とか意見が出て、それがなるほどと思ってよく理解できました。支部、ブロックに帰って組合員に話したいと思います」

監査を終えて ─ 有限会社 山梨フルーツライン 代表取締役 手塚一利 ─

 過日、3月14日、公開監査を実施したところ、大勢の皆様の参加を頂いたことに、心から感謝を申し上げます。
 公開監査の意義及び記帳、伝達の重要性を改めて確認させて頂きました。「食」に対するすべての問題を、作る人と食べる人が共有し、一緒に工夫することが、食育の発展そのものではないかと思います。
 「生協」という字は力を3つ合わせて生きると書いてあります。まさに字の如く、組合員・職員・生産者の三者の知恵と工夫で、理想を叶えられる唯一の組織であることを実感させられました。私達は生産者として、安心とおいしいくだものづくりを持続するための責任がもてる産地づくりを目指しています。
 現在は、営農塾を中心に若い生産者を育成中であります。元気な土で元気な人がつくるくだものを楽しく食べてもらえるという思いを込めて、一生懸命がんばっています。
 今後ともよろしくお願い致します。

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