公開監査
公開監査レポート
あくなき挑戦を続ける生産者たち
(農)さんぶ野菜ネットワーク
10月17日、「東都みのり」でおなじみの(農)さんぶ野菜ネットワーク(千葉県)で公開監査が行われました。公開監査とは、産地における品質管理のしくみを確かめると同時に、生協組合員と生産者がお互いの理解を深める取り組みです。
当日は約50人が参加し、(農)さんぶ野菜ネットワークの野菜(にんじん、里いも、大根、ほうれん草など)が約束どおりに生産されていることを確認できたことはもちろん、有機農産物※を生産している畑以外でも同様の管理がされており、環境と安全性に配慮した農業をしていることが分かりました。

【監査人※による事前監査】
※監査人…有機JAS検査員1人、他の産地から1人、東都生協から組合員2人、職員2人の計6人
10:20 | 産地からの説明・質疑 |
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15:00 | 集荷場・畑・生産者倉庫の視察 |
17:55 | 文書の確認 |
19:10 | 終了 |
【公開監査】
10:00 | 開会あいさつ【さんぶ野菜ネットワーク、東都生協】 |
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10:20 | 産地からの取り組み説明 |
11:05 | 監査人からの事前監査報告・質疑 |
12:10 | 昼食・交流 |
13:00 | 4つのグループに分かれて畑を視察 |
14:30 | 休憩 |
14:40 | グループに分かれての意見交換 |
16:30 | まとめ、主催者あいさつ |
16:35 | 終了 |
(農)さんぶ野菜ネットワークの生産者は、今でこそ登録圃場※80haのうち35haが有機認定を受けた畑で、それ以外でも基本的に農薬をほとんど使用しない栽培をしているのですが、このような栽培を行うようになったのは20年前のことです。当時、同じ作物を作り続けることによる病害虫の発生、その防除のために農薬の大量使用、結果としての生産者自身の健康被害という悪循環に陥り、それを打開するため有機栽培に取り組むことを決意したそうです。
農協に有機部会を設立し、「土壌消毒剤や除草剤の不使用」「化学肥料を使わない堆肥による土づくり」「輪作体系の重視」など5つの基本的合意事項を設け、現在に至ります。今では当たり前となっている肥料や農薬の使用状況の記録も当時から行い、しくみが整っていたこともあり、有機JAS規格も比較的スムーズに認定されたとのことです。
消費者にとっても有機農業は安心ですが、それを実践するのは大変です。農薬や化学肥料を使用できない分、作物が本来持つ生きる力をいかに引き出すかが大事になってきます。いくつかの作物を順番に作る輪作もその一つ。同じ畑で同じ作物を作り続けると、その作物に良くない病害虫が発生してしまうので、それを防ぐために、土の中の害虫がいやがる緑肥作物を織り交ぜながら輪作を行うのです。ただ、その輪作も、この作物の後にはこれを作ればよいというようなマニュアルがあるわけではなく、毎年試行錯誤の連続だそうです。そのほかにもビニールハウスに虫が入らないように目の細かい網を張ったり、化学合成ではない微生物由来の農薬を使用したりと、通常の栽培とは異なる苦労があります。そのような努力や工夫をしても、時によっては病害虫の大発生により、作物の出荷をあきらめざるを得ないこともあるのです。
ここでは農業を始めてまだ数年という20代の若い生産者から、有機部会設立当初からのベテラン生産者まで、互いにコミュニケーションを図り、作物を見る目、自然を見る目を養っています。生産者をサポートする事務局体制もしっかり整っており、生産者と事務局の両者がうまい具合に連携し、お互いにレベルアップを図っているようすがうかがえました。
産地事務所での文書の確認 |
生産者の畑の確認 |
生産者が持っている文書の確認 |
一週間ほど前に、6人の監査人が産地の取り組みについて事前監査を行いました。「東都生協と約束した基準に従った栽培がされているか」、「その野菜が出荷基準に従って選別され、約束と違う野菜と混ざることがないように管理されているか」について産地の事務局職員や生産者からの聞き取り、記録の点検、生産者の畑や倉庫の視察で確認しました。結果、さんぶ野菜ネットワークとして出荷している野菜は、東都生協の自主的な栽培区分である「東都みのり※1」として、きちんと管理されていることが分かりました。産地では生産者から提出される栽培管理台帳※2により、基準どおりであることを計画段階から出荷まで、都合3回確認することになっています。
出荷する際は、集荷場に各生産者が小分け袋詰めした野菜を持ち込み、担当者が検品することになっており、その記録もありました。生産者によっては、さんぶ野菜ネットワーク用に出荷する野菜と一般販売用の野菜を作っている人もいましたが、出荷時期をずらすなど混ざらない工夫をしていることも確認しました。監査人からは、「農薬の管理をより確かにするために、在庫管理表をつけたほうがいい」「記録が多すぎるようなので、強化すべきところと簡素化できるところのメリハリをつけた方が良い」などの指摘がされました。
有機JASの登録認定機関による年1回の検査以外に、内部監査のしくみもあり、それらを受けて組織内でしくみを常に見直し、改善している点は監査人から賞賛されていました。
※2 栽培管理台帳…肥料や農薬の使用を含めた生産計画とその実績を記入する記録
グループに分かれての意見交換 |
昼食交流の後は、4つのグループに分かれて、生産者の畑の視察を行い、会場に戻って活発な意見交換が行われました。
参加組合員からは「私たちのような企業を退職した世代がそれまで培ってきたことを農業の分野で生かすこともできるのでは」や「有機JASという第三者認証ではなく、顔の見える関係により経費と手間を省くことはできないか」、「農家の苦労を知って、それに見合う価格で私たちが買い続けることが必要」といった意見が出ました。また、「有機農産物という安心感だけでは売れない。おいしいものを作る必要がある」との生産者に「もっといいものを作る自信はあるのですか」との質問が出たのですが、「自信がなくなったらおしまい」ときっぱりとこたえていました。自らの仕事に誇りを持っている生産者の気概を感じました。
食品への不安や不信が絶えない昨今ですが、東都生協には、組合員が品質管理のしくみを確認し、意見交換ができる産地とのつながりがあります。そのことがお互いの絆を深めていく、そんなことを実感しました。
今回参加した方に書いていただいたアンケートから、特徴的な部分を抜粋します。
「聞くのと見るのと大違いといいますが、聞いて、見て、両方で認識を新たにしました」「有機認証制度は書類、認証のためのお金、手間がかかる。東都との関係では独自の簡略化した方法を考えるのはどうか」「東都の組合員が参加できる援農ボランティア組織を立ち上げ、労働で農業を手伝える組織をつくったらどうか」「とてもしっかり管理されていることがわかり、安心と感謝の気持ちでいっぱいになりました」「さんぶの皆さんの団結力と一生懸命な取り組みを見て、信頼感を持ちました」「今回のように生産者と消費者を結びつける機会をつくることが必要だと思った。昨今の食をめぐる情勢の中で生産者は情報を伝えたがっており、消費者は安心・安全を欲している」
東都生協公開監査を今回(農)さんぶ野菜ネットワークで開催させていただきました。参加いただいた皆さんはお疲れ様でした。私たちが無農薬栽培に取り組んで20年、2000年にはいち早く有機JAS認証を取得しました。欧米で生まれた基準の認証制度をグローバルスタンダードの名の下に日本に導入されたわけですが、高温多湿の気候条件の中、楽に作れるものではありません。日々、悪戦苦闘をしていますが、認証された喜びは生産者の自信につながっています。
今回の公開監査では、有機栽培を中心に見ていただき、認証制度についても理解をしていただけたのではないかと思います。特にグループ別のディスカッションでは組合員さんや他産地の皆さんと「有機農業」というテーマにしぼり、私たちの苦労話や他産地の皆さんの有機栽培の印象、組合員さんの有機農産物への思いなどたくさんの意見交換ができ、有意義な時間を持てました。感謝しております。
ただ、参加者が50名程度ということで少ないかなと思われますが、組合員さんへの産地アピールのみならず、生産者同士の情報交換の場としても、今後も公開監査が発展していただきたいと思います。