公開監査

公開監査レポート

持続可能な日本の農業のヒントがここにある

(農)和郷園の挑戦

2008年2月14日

 2月14日、農事組合法人 和郷園(以下、和郷園)で79人※1が参加し、産地の取り組みを確かめると同時に理解を深めるために、公開監査が行われました。
 監査人が中心となって、和郷園の農産物(大葉、きゅうり、ルッコーラ、サンチュ、パセリ)が約束どおりに生産されていることを確認できたことはもちろん、多くの生産者がGAP※2に積極的に取り組み、生産物の安全や環境に配慮した持続可能な農業を実践していることがわかりました。

※1 参加者内訳…東都生協組合員:18人、役職員:5人、他産地:28人、和郷園:26人、その他:2人
※2 GAP=Good Agricultural Practice の略称で、農業生産現場において、食品の安全確保などへ向けた適切な農業生産を実施するための管理のポイントを整理し、それを実践・記録する取り組み。

スケジュール概要
2008年2月5日(火)

【監査人による事前監査】

監査人…有機JAS検査員1人、他の産地から1人、東都生協組合員2人、東都生協職員2人の計6人

10:00 産地からの説明・質疑、文書の確認
15:30 セットセンター・畑の視察
17:20 事前監査のまとめ
17:50 終了
2008年2月14日(木)

【公開監査】

10:00 開会あいさつ【和郷園、東都生協】
10:20 産地からの取り組み説明
11:20 監査人による事前監査報告・質疑
12:20 昼食・交流
13:00 4つのグループに分かれて畑を視察
14:50 会場に戻りまとめ
15:30 グループごとに報告・質疑
16:00 まとめ、主催者あいさつ【和郷園、東都生協】
16:20 終了
理念は“生産者の自律” ─ 挑戦し続ける生産者集団 ─

 農業の担い手不足、耕地面積の減少、農産物価格の低迷など日本の農業をめぐる環境は厳しくなっていく一方ですが、そんな状況をものともせず果敢に挑戦しているのが和郷園の生産者たちです。

 和郷園は、生産者自らが主体的に考え、自分たちが作った物は、自分たちが責任を持って消費者に届けるという「生産者の自律」を理念に掲げ、10年前に設立されました。一人ひとりの生産者には「組織に頼るのではなく自分の力で」という気概が感じられます。

 実際、農産物の生産だけでなく、農産物の付加価値をつけ、野菜の需給バランスの調整にもなる冷凍加工センターやカット野菜工場、農産物を加工する際に出る野菜くずや酪農家からの牛ふんから肥料やメタンガスを生産するリサイクルセンターなど、積極的に資源循環型のしくみを構築しています。

GAPの取り組み ─ 農作物の安全・環境負荷の低減 ─

 和郷園では農産物の安全だけでなく、環境への負荷の低減、生産者自身の安全まで考えたGAP認証の取得を積極的に進めており、27の農場でGAP認証を取得しています。日本全国でGAPを取得している農場は約200しかないことを考えると、先進的な取り組みであることが分かります。
 和郷園の生産者の畑を視察すると、まず「きれい」という印象を受け、注意すべきことが明記された掲示が随所にあることに気づきます。整然と整理整頓された畑や作業場では、農産物への危害を減らし、ミスを防ぐだけでなく、無駄がなくなることで経営的なメリットもあります。
 GAPに取り組むことで記録が増え大変になったというのも事実ですが、「何のために取り組むのか」という質問には「販売するからにはGAP程度の管理はしないといけない」「農業を生業とする以上、基本的な取り組みである」という答えが返ってきました。

GAP認証…日本GAP協会が進めているJGAP認証。審査機関による審査を受け、一定のレベルに達していればJGAP認証を得ることができる。
確かな仕組みで安全・安心 ─ 将来に向けて課題も ─

 監査では、主に「出荷している農産物は約束通りに生産されているか」「その農産物は約束以外のものと混ざることはないか」について確かめます。当日は、監査人による事前監査の報告がありました。

 その結果、東都生協との約束事を守るためのしくみがあり、きちんと機能していることが確認できました。和郷園では、使用した肥料と農薬を畑ごとに記入した書式を出荷前に提出することになっていて、その内容を担当職員が確認しています。監査人が実際にいくつかの記録を無作為に抽出して点検したところ、間違いないことが確認できました。品目によっては、同じハウスの中でもいくつかに分割して農薬散布の記録をつけているなど、丁寧な管理をしていました。さらに、肥料を施す際には、土壌分析の結果や作物の状況を見た上で総合的な判断をし、環境への負荷の低減も心がけています。

 東都生協にくる農産物のほとんどは、各生産者が選別・小分け・包装をしているのですが、きゅうりとサンチュは複数の生産者の物を1カ所に集めて行っています。監査人が手分けをしてセットする現場に行き、実際の流れを聞き取り、記録も点検したところ、他から混ざる心配がないことを確認しました。

 監査人からは、総評として「記録の重複が多いので、点検の負担が増えるだけでなく転記ミスの可能性もある。強化すべきところと、整理するところのメリハリをつけていくといいのでは」との指摘がありました。

事前監査での監査人による文書の確認

監査人が手分けをして畑を確認

畑の視察で生産者の取り組みを実感 ─ 想定される危害を防止 ─

 午後は、グループ別に生産者の畑を視察してその結果を報告するという参加型の企画が行われました。
サンチュ、ルッコーラ、きゅうり、パセリの4つのグループ(12~14人ずつ)に分かれて、生産者から直接話しを聞き、それを模造紙にまとめ、発表することをとうして、より理解を深めることができました。

 例えば、農薬散布を抑える工夫として、湿度管理や作物を丈夫に育てるなど、病気の発生を抑える環境づくりや、ハウスの通気口に防虫ネットを張っていること。農薬の他からの飛散を防止するために、背の高くなるソルゴーというイネ科の飼料作物を周囲に植えたり、立て看板で近隣の農家に注意を促したりしていること。さらに、ハウス内にある収穫用のはさみに農薬がかからぬよう箱にしまったり、作業場の蛍光灯には割れて飛び散ることがないようにカバーをかぶせてあったりなど、食品へのさまざまな危害を想定して、それを防ぐための工夫をしていることがわかりました。

午後は4グループに分かれて畑を見学し、生産者に質問をしたり意見交換などを行いました。

グループごとに確認してきたことを報告し、理解を深めました。

地域に貢献する和郷園への期待 ─ 農業が地域の活性化に ─

 10年前に設立して「地域の主な産業である農業がしっかりすることで、地域が活性化する」という信念のもと、組織を拡大してきた和郷園。

 農村地域に農業を中心とした事業を起こして、グループ全体で1000人規模の雇用を生み出し、まさしく地域の元気の源となっています。

 自律した生産者、GAPへの積極的な取り組み、多様な事業の展開など、持続可能な農業の一つの形が見えてきました。

 これからも半歩先の事業へ取り組み、農業後継者が増え、ますます発展していくことを期待します。

参加者の声 ─ 当日のアンケートからの抜粋 ─

参加者からのアンケートの一部をご紹介します。

(1)産地に対しての感想

他産地の参加者から
「大変幅の広い事業展開に驚き、勢いを感じた」「GAPの取得など、先進的で意欲的に取り組んでいる。参考になった」「考え方が合理的、今後あるべき農業経営のモデルケースである」
東都生協組合員から
「生産現場ではリスクを認識しつつ、さまざまな工夫をしながら取り組んでいる生の声を聞くことができ、貴重な体験だった」「農業についての認識を新たにした。設備にも投資されているし、作業場や作業にも清潔、安全に気配りが感じられた」

(2)公開監査の運営についての感想

他産地の参加者から
「監査というよりは訪問見学の色合いが強かったのでは。全員が圃場まで確認するのは時間的に厳しい」「グループに分け、それぞれが発表するという手法は初めて。運営が難しいと思うが、参加型でよい」「生産者との交流がもう少しできればよかった」
東都生協組合員から
「冷凍設備や2~3軒の農家(有機1、特栽1、慣行)に分けて見せてもよかったのでは」「生産者の圃場視察での栽培基準、管理など知ることができ、生産者の顔を見、話を聞くことができ、よかった」「プリントにまとめられていたこと、スライドの併用が効果的」「参加者と産地とのコミュニケーションがとれる工夫が必要」

監査を終えて ─ 和郷園 佐藤正史 ─

 東都生協による和郷園の公開監査が多くの方をお迎えし、無事終了することが出来ました。参加していただいた生協組合員の皆様、他産地の生産者の皆様、準備からお手伝いいただいた東都生協のスタッフの皆様に心から感謝申し上げます。
 監査というとどうしても産地側は受け身になりがちですが、私たちは今回の取り組みを"成長のチャンス"と捉えました。外部の人に、日ごろ実施していることを確認してもらうことは不安もありますが、評価してもらえれば自信に変わります。職員の業務はもちろんですが、生産現場ではましてそうです。

 現在、和郷園では生産現場のレベルアップのためGAPの導入を推進しています。中には、"経済的メリットに直結しない。""生産者だけに負担が増えている。"といった声も聞かれ、GAP導入に前向きになれない人もいます。しかし、大局的に見れば、GAPのような生産管理のレベルアップは今後ますます重要になってきます。今回、GAPに取り組んでいる農場をご案内し、その生産者とじかにお話をしていただきました。多くの人に評価していただき、各生産者は自分のしていることを再認識し、自信を深めることが出来たと確信しています。組織としても、更なるGAPの普及に弾みがついたと感じています。
 GAPの内容は"当たり前のこと"という方もいます。その通りだと思いますが、"当たり前のことを、当たり前にやり続ける"ことは、なかなか難しいことです。日常生活でも"挨拶、掃除、感謝、整理整頓"といった当たり前の凡事を徹底できる人は、少ないのではないでしょうか。

 和郷園の取り組みは、農産物の生産のみならず、加工事業、リサイクル事業、店舗事業、海外事業と多岐に広がりつつありますが、基本は"農家の生産事業"です。他の事業をどんなに拡大しても、参加する農家が成長できなければ組織の成長は危うくなります。その生産現場の成長にとってGAPは有効な手段の一つなのです。そして、消費者の皆様、流通に携わる皆さまにその内容を理解し評価していただくことが、更なるGAPの普及に結びつくのです。

 今後も東都生協の公開監査と通じて、たくさんの人が交流し、多くの人に生産組織、生産現場の理解が深まり、農業現場が元気になることを祈念しております。

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