公開監査

公開監査レポート

琵琶湖を汚さない

JAグリーン近江

2006年11月15日~16日

 山の木々が色づき、秋のさわやかな青空が広がった11月15~16日、ヒノヒカリでおなじみの滋賀県のお米の産地、JAグリーン近江※1にて公開監査が開催されました。公開監査とは産地の品質管理の仕組みを参加者が確認すると同時に、産地の特長を理解する場でもあります。60人※2が見守る中、JAグリーン近江は東都生協との約束※3どおりのお米を生産していることはもちろん、農薬や化学肥料の使用を抑えると同時に田んぼから泥水が流れ出ないようにして、近畿地方の水がめである琵琶湖を汚さない農業を実践していることが確認できました。ヒノヒカリを食べることが琵琶湖の環境を守ることにつながっていることを実感した公開監査となりました。

※1 JAグリーン近江…3年ほど前からヒノヒカリの取引がある農協です。
※2 参加者内訳…東都生協組合員:26人、役職員:5人、他産地:5人、JAグリーン近江:22人、その他:2人
※3 東都生協との約束…東都生協では使用予定農薬や散布回数などについて事前に産地と文書で約束を交わしています。

スケジュール概要
2006年11月15日(水)

【事前監査・公開監査1日目】

カントリーエレベーターの視察

10:30 監査人による事前監査
  • 公開監査資料について説明・質疑、文書確認

監査人…専門家1人、他の産地から1人、東都生協組合員2人、東都生協職員2人の計6人

12:30 昼食
13:20 開会
  • 開会あいさつ【JAグリーン近江】
  • JAグリーン近江・生産者・監査人紹介
  • 公開監査について説明
  • 産地の取り組み説明
14:10 カントリーエレベーター見学

以降、監査人と参加組合員は行動が異なります。

【参加組合員】

15:10 大中の湖(牛舎、田畑など)見学
18:00 夕食・交流

【監査人】

15:10 事前監査
  • 生産者圃場・倉庫視察、公開監査2日目に向けての打合せ
20:00 終了
2006年11月16日(木)

【公開監査2日目】

09:00 事前監査報告、質疑
10:05 グループ分け意見交換、報告
11:30 主催者まとめ【JAグリーン近江、東都生協】
11:40 終了
琵琶湖を汚さない農業を実践 ─ 環境こだわり農産物を推進 ─

 近畿地方の水がめである琵琶湖を抱える滋賀県では、県を挙げて琵琶湖の水質を改善するための取り組みを行っており、農業分野では、県独自の認証制度である「環境こだわり農産物認証制度」を設けています。これは単に農薬や化学肥料の使用を抑えるだけにとどまらず、農地から濁水を出さない取り組みなど、琵琶湖をはじめとする環境への負荷を削減することが求められます。東都生協に届いているヒノヒカリもこの認証を受けたものです。今回、公開監査の対象となったのは、東都生協向けのヒノヒカリのうち8~9割(2005年産米実績)を生産している大中の湖(だいなかのこ)ヒノヒカリ特許栽培生産部会です。
 ヒノヒカリは関東ではあまりなじみのない品種ですが、西日本ではメジャーで、日本全体でも作付面積はコシヒカリに次いで2位とのことです。また、滋賀県は台風など自然災害の少ないため、安定した生産ができる地域でもあります。

水稲うるち米の品種別作付見込(2006年7月31日農水省発表)による。2005年産米は2位がひとめぼれ、3位がヒノヒカリ。
大中の湖はオランダ?! ─ 広大な干拓地 ─

干拓地からの排水をポンプアップ

 公開監査の会場ともなったJAグリーン近江大中の湖支店の2階の高さが琵琶湖の水面とのこと。ここはオランダの干拓地と同じように、排水をポンプアップして琵琶湖に流しています。干拓地のため、田んぼの多くが1.5ha(約120m四方)と非常に広く、作業効率がいいのです。

農協任せにしない生産者 ─ 農協と部会の良好な関係 ─

 生産者は農協に対して受身になりがちなのですが、この部会は生産者が農協をうまく利用しているといいます。部会に栽培管理委員と販売促進委員を設けていて、生産についても販売についても自らが主体となっています。自ら作ったものは自らかかわって売っていくという意思が感じられました。農薬の使用についても滋賀県の環境こだわり米の基準より厳しく、延べ使用成分数を4回に制限をしています。

環境こだわり米の基準
  化学合成農薬(延べ使用成分数) 化学肥料(窒素成分量kg/10a)
一般米の使用状況(滋賀県)
14
9
環境こだわり米の基準(上限)
7
4
農薬を減らすだけじゃない ─ 温湯消毒と特許栽培 ─

 農薬を減らすといっても、ただ単に使わなければいいというわけにはいきません。使わないための工夫や技術が必要となるのです。その一つが種もみの温湯(おんとう)消毒。通常、種もみは農薬で消毒するのですが、ここではお湯で殺菌しています。農薬を使わなくても、それと同等の効果が得られるので、滋賀県では環境こだわり米の普及とともに、温湯消毒の取り組みが広まっているそうです。
 米の害虫の一つにカメムシがいます。カメムシが稲穂の汁を吸うと、お米に斑点が生じて米の品質が下がってしまいます。一般的には農薬によってカメムシを防除しますが、この部会では、農薬をできるだけ使わないようにするため、「カメムシの習性」と「地域の特性」をうまく組み合わせた技術で防除しています。具体的には次の3つです。
(1)畦畔(けいはん)雑草の2回草刈り技術
カメムシの発生を抑えるため、すみかである畔(あぜ)の雑草を効果的(稲の出穂期3週間前と出穂期の2回)に除草します。
(2)額縁別収穫技術
カメムシの被害を受けやすい、田んぼの周囲(額縁部分)の米と内側部分の米とを区別して収穫します。それにより、カメムシの被害が多い米と少ない米に分けます。これは一つの田んぼの面積が広いからこそできることです。
(3)色彩選別機利用技術
区別して収穫した額縁部分の米は、色彩選別機にかけてカメムシの被害を受けた米を取り除きます。

泥水を琵琶湖に流さない ─ 代かきと田植え時がポイント ─

事前監査で田んぼを視察

 琵琶湖を汚す原因の一つが田植えの準備である代(しろ)かきや田植えの際に水田から流れ出る泥水です。その泥水には窒素やリンが含まれるため、琵琶湖の富栄養化につながるのです。これを抑えるために、代かきには水田ハローを利用したり、田植えの時には排水口や畦畔から漏水がないことを確認したりと、田んぼから泥水が流れ出ないような工夫をしています。

水田ハロー…水田ハローとは、ロータリーのかわりにトラクターに取り付ける浅水代かき用の機械のことで、ロータリーより回転爪の長さが短く、作業幅が広い作業機械です。浅水代かきを行うことで、代かき作業によって河川へ流出される水田の濁水を減らすことができます。
出荷前に栽培記録を確認 ─ 収穫後の区分管理も大丈夫 ─

3つのグループで意見交換

 この部会では使用農薬や回数、肥料などについての栽培基準を生産者がきちんと理解をし、栽培の記録をつけ、米を出荷する前にその記録(OCRシート)を農協に提出することになっています。さらに農協ではその記録の内容を点検し、基準どおりであることを確認した後、米の集荷を行っています。公開監査を行うにあたって実施された、監査人※1による事前監査では、これら仕組みがきちんと動いているかを確認するため、実際に記録を確かめました。その結果問題はなく、約束どおりのものが生産されていることが確認できました。
 米の場合、他の農産物と違うのは、収穫した後に加工されることです。生産者が収穫した米はもみの状態で農協のカントリーエレベーターに運び込まれます。それを乾燥・調製し、もみすりを行い玄米にするのです。玄米は発注に基づいて出荷され、精米所でぬかを取って白米となります。つまり、約束どおり生産されたものが消費者にきちんと届けられるためには、収穫後の区分管理※2が重要となります。事前監査ではカントリーエレベーターで玄米になるまでの管理状況について聞き取りや記録の点検を行いました。その結果、カントリーエレベーターではもみの荷受け口が分かれており、乾燥・調製、保管、もみすりは品種や栽培区分ごとに管理されていることが確認できました。

※1 監査人…専門家1人、他の産地から1人、東都生協組合員2人、東都生協職員2人の計6人
※2 区分管理…品種や栽培区分など必要に応じて分けて管理すること
参加者の声 ─ 当日のアンケートからの抜粋 ─

今回参加した方にはアンケートを書いていただきました。その中から特徴的な部分を以下に抜粋します。

「安全、安心の米づくりが実際には余り知られておらず、ブランド銘柄の米が(単においしいということで)もてはやされているのではないかと思います。是非この『こだわり米』を少しでも広めたい」「産地が見える、作っている方とのコミュニケーションは、信頼が一層深まることも感じました」「最後に3グループに分かれ、生産者が同一テーブルにつき、身近で会話したことがとてもよかった」「公開監査でなければ聞けない事もたくさんあったので、参加して本当によかった」「関わっている皆さんが生き生きと仕事をしていらっしゃる。よいものをつくろうとしている心意気もよく伝わりましたし、あまり遠くなく顔の見える産地に参加できてよかったので、このこと(思い)を帰ったら多くの人に伝えたいと思います」「使用農薬と化学肥料の削減で安全なお米を作ることプラス濁水流出防止などで琵琶湖を守ることに努力されていることを評価します。生産者(ヒノヒカリ部会)の方が自ら定めたきびしい決まり事(栽培基準)を自らの監督のもと、しっかり実行していることがよく分かりました。その情熱や手間に見合った収入があれば生産者の方も報われることと思うのですが…それには消費者が続けて購入することなのですよね」

監査を終えて ─ 部会長 藤田欽司 ─

 東都生協との取引をするようになり3年目、環境にやさしい水稲栽培を始めて5年、今回の11月15~16日の2日間にわたり、公開監査を受けることになりヒノヒカリ部会が取り組んできた水稲栽培を説明し、監査人の方々に関係書類のチェック、それに伴う質問厳しく緊張の中、自分たちが自信を持って取り組んで来た事に評価を受けることができたと思います。
 水稲栽培での公開監査が東都生協では初めてと聞き、今後一層の向上を図り、組合員の皆さまに喜んでいただけるよう生産に努力していく決意で頑張ります。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。

─ JAグリーン近江 大中の湖支店 中田昌宏 ─

 今回の公開監査を終えて参加者の皆さまには、私たちの取り組みがご理解いただけましたでしょうか?この公開監査を終えて、生産者及びJA職員も良い経験ができ、大変勉強になりました。また、監査人の方や組合員・産地の方々からの改善事項・ご意見を今後の参考にさせていただき、さらに安心・安全で信頼されるお米を皆さまに届けられるよう、生産者とともに努力していきたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。

─ JAグリーン近江 営農事業部 石井明義 ─

 監査人の率直な意見を聞けてとても勉強になりました。
 産地として信頼される米作りを目指して、長く続く取り組みを東都生協や(株)ニュー・ノザワ・フーズと一緒に取り組んでいきたいと強く感じました。
 参加してくださった皆さまには、もっと産地のいいところを見ていただきたかったのですが、時間の関係上対応しきれなかったこと、大変申し訳ございませんでした。
 生産農家と一緒に今まで以上のお米が届けられるよう一生懸命がんばりますので、皆さま方の応援をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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