公開監査

公開監査レポート

地域総合産直がJAやさとの農業を変えた

八郷町農業協同組合(JAやさと)

2004年5月13日~14日

 5月13日と14日、JAやさとで公開監査が開催されました。東都生協組合員31人、職員16人が2台のマイクロバスで参加したのをはじめ、JAやさとの生産者や職員、他の産地の生産者など総勢260人が一堂に集いました。今回は「東都生協の地域総合産直はどのような地域農業をつくってきたか」をテーマに、充実の2日間を過ごしました。

地域総合産直とは…私たちが本当にいい生産物を継続的に得ていきたいと思うならば、その地域の農業の持続性を考えなければなりません。ほしい物だけを引き取る単品の産直ではなく、その地域全体の活性化を視野に入れながら、その地域の産物全体に目を向けた取り組みが地域総合産直なのです。

JAやさとってどんな産地?

 JAやさとは東都生協の地域総合産直の産地と位置付けられ、単品の取引ではなく地域性を生かした多品目の青果物のみならず、畜産物(豚肉、鶏肉、卵)や産直加工品(納豆)といった地域まるごと産直をしています。交流も活発で、ブロックなどの産地訪問のほかに、「やさと体験田」や「やさと夏の交流会」、「やさと林間学校」などの交流企画にも多くの組合員が参加しています。

今回は、一味違った公開監査

 今までの公開監査は、東都生協との約束事を守るために産地にはどのような仕組みがあるのかを中心に監査してきました。しかし、東都生協が進めてきた産直は人や地域とのつながりとともに歩んできた歴史があります。そこで、今回は産直が地域農業をどのように変えてきたかを検証することとなりました。

事前監査で入念な検証

 公開監査に向けて、5月10日に5人の監査人(専門家1人、東都生協組合員3人、職員1人)が事前監査を行いました。特に、生産履歴の記帳運動については、4つの品目(大葉、ししとう、ブロッコリー、ピーマン)を手分けしてチェックするとともに、不明な点は品目担当職員に聞き取りを行いました。

公開監査で見えてきた産地の到達点と課題

 13日の午前10時~午後4時35分まで八郷町総合運動公園トレーニングセンターで行われた公開監査では、産地からの説明があった後、監査人が中心となって産地との質疑を行いました。検証テーマは4つ、「品目作り」「品質保証のための記帳運動」「商品づくり」「有機農業と新規就農」。これらについて会場からの発言も受けながら、これまでの取り組みを振り返ると同時に課題を明らかにしました。

(1)たばこと養蚕中心の農業から多品目生産に

1987年当時、東都生協は急速に拡大しており、新たな野菜の産地を探していました。それも単なる取引先ではなく、産直をすることで地域農業が活性化するような関係を模索していたのです。そこで、専門家の調査結果を踏まえて八郷町に白羽の矢が立ち、地域総合産直が始まりました。
 八郷町は畜産と養蚕、たばこの栽培を主とする地域でしたが、それらが衰退する中、もともとなかった品目が生協からの要望で生産されるようになり、栽培品目はどんどん増えていきました。品目が増えた背景には、高齢者や婦人の参加も欠かせません。そんな過程で、地域の農業が活性化していき、その産直品が生協組合員の生活の向上にもつながってきたのです。
 今後は、販売先である生協の利用が伸び悩む中、継続的な生産や地域農業のさらなる活性化のために、販売拡大の取り組みも必要です。

(2)品質保証のための記帳運動

JAやさとでは、品質保証の取り組みとして、1991年から生産履歴(使用農薬や肥料、畑での作業の記録)の記帳運動をしています。当初は、生産者に記帳を勧めている程度でしたが、無登録農薬の社会問題を背景に、産直をする生産者の条件として記帳を義務付け、その内容を農協として点検するなど改善してきたこともわかりました。「100人の10歩よりも1000人の1歩」ということで、みんなができるということを念頭において仕組みづくりを進め、高齢者でも記入しやすいような工夫がされています。
 事前監査において詳細に記帳の実態を点検した監査人からは「記入漏れ、確認の不十分な点が見受けられる」との指摘がありました。生産者への記帳の目的の徹底と、記帳した結果のさらなる活用の必要があります。

(3)JAやさとのパワーの源は有機農業と新規就農者

もともと八郷町には有機農業をする人はいましたが、グリーンボックスに有機野菜を入れることがきっかけで有機栽培部会が立ち上がり、新規就農者も増えてきました。つまり点の存在だった有機農業を面に広げたのです。有機農業のような特別の農法にチャレンジする生産者を後押しするのは、地域での農業技術の向上を目指した交流や指導そして、生産された有機農産物の価値を評価して買い支える消費者の存在です。八郷町の場合、その両方がそろって発展してきたのです。日本の農業が元気がない中、八郷町の有機農業はどんどん広がっています。
これからは有機農業を新規就農者以外にも広げていくとのことなので、販売先の多角化や、安定生産と品質の一定化のための技術向上の取り組みも必要となります。

熱く語り合う ─ 公開監査以外のさまざまな企画 ─
新規就農者と語る会

 13日午後6時40分~8時50分、国民宿舎「つくばね」大ホールで新規就農者を中心に、地元の生産者および後継者、生協組合員がリレートーク。

印象に残った生産者の言葉
「農業は部活のようなもの。努力すればするほど成果がある」「有機農業はつくっている人の体に優しい」「なぜ、農業をしているか不思議がっているが、私からすればなぜ農業を継がないのか」「輸入農産物は脅威ではない。対抗できるものを持っているから」「消費者が生産者の情報をほしいというのと同様に生産者は消費者の情報を知りたい」

昼間の公開監査の少し硬いイメージとは変わり、新規就農者を囲んでの和やかな語り合いとなりました

フィールドワーク

 14日午前5時35分~7時30分、3つの農家の畑にて生産者より生産現場の話をうかがう。

菱沼ゆき江さんの畑

菊地力男さんのハウス

新規就農者の研修の場である有機畑

農薬を減らす工夫がここにも、…ハエトリ紙

すくすく育て、いんげんの赤ちゃん

たまねぎは茎を倒して収穫時期を教えてくれます

八郷の農業どうしたいディスカッション

 14日午前10時~正午、八郷町中央公民館で6つのテーマごとにグループに分かれて、ディスカッション。テーマは、「農産物の規格・基準」「後継者問題」「監査検証課題から」「情報開示をどう思うか」「農業の販売戦略」「農薬問題」

グループごとに与えられたテーマに沿って生産者や消費者、農協や生協職員の立場でディスカッションをしました

話し合われた結果は、模造紙にまとめて発表

監査人として参加した組合員の感想 ─ 抜粋 ─

これからの産直に期待!

千駄木ブロック 家近由美子さん
最初は「公開監査」の意味もわからずに参加しましたが、作る側と食べる側が互いの意見を交換し、よりよい農業のあり方を模索し信頼関係をしっかり築く試みに、昨今の農業に憂いを覚えていた私は、一条の光を見た気がしました。日本の農業の未来は明るくなると思いました。参加させていただき感謝しています。

これからも応援して!

JAやさと有機栽培部 販売担当役員 山崎左千子さん
地域総合産直という優れた政策は農業基盤としての農村を守り、発展させ、産地は確実に新しい農業を生み出していくことができました。
 以前、東都生協の組合員として仕入委員になったことがきっかけで農業に魅せられ「ゆめファーム新規就農制度」第一期研修生から独立後、有機栽培部会の生産者となった私はまさに人的総合産直の奇跡のようにも思えます。農業を取り巻く情勢がますます厳しくなる中、私たち生産者は一層元気に良いものを作っていきますので、これからもぜひ、応援してください。

公開監査レポート一覧に戻る