東都生協の残留放射能自主検査

2011年3月の福島第ー原子力発霞所事故によって生じた広範かつ深刻な放射能汚染は、私たちの食とくらしを脅かし、産地やメーカーの生産活動にも大きな影響を与えました。
東都生協(コープ)では事故発生直後の2011年3月15日から、関東・東北産の農畜水産物、さらに国や自治体による当時の検査で暫定規制値を上まわる 濃度の放射性物質を検出した品目などを重点に自主検査を行い、検査結果を公開し安全・安心を求める組合員の声に応えてきました。

そして、精密測定可能な「ゲルマニウム半導体検出器」1台、モニタリング用の「NaI検出器J2台の体制で週次約70検体の自主検査をおこない、結果をホームページやチラシでお知らせし、現在に至っています。
事故直後の大曼放出と飛散以降、放射性物質の新たな大量放出は見られません。しかし汚染水問題に示されるように事故は収束していません。また福島 第ー原発の廃炉を完了させるには、解決すべき課題が山稜し、30年とも40年ともいわれる長い時間がかかります。東都生協はひきつづき取扱い商品の 残留放射能検査を実施します。

1.検査目的 1.検査目的
  • 組合員が安心して商品を購入できるように、検査検体数を維持し、かつ重要品目の検査頻度も高めながら残留放射能にかかわる情報提供をおこないます。
  • 検査データを蓄積することにより、汚染状態を把握し、商品を取り扱う是非の判断に役立てます。また、産地での放射性物質の除染対応などの参考資料として提供します。
1.検査方針 1.検査方針
  • 検査対象品目数は現行の週次約70品目を維持し、検査結果の情報提供と検査数値の解説により組合員への適切な情報提供に努めます。
    ※ゲルマニウム検出器で約34検体/週、2台のNaI検出器で36検体/週
  • 引き続き農畜水産物の検査に重点をおき、必要に応じて加工食品も検査します。
  • 汚染状況の把握を目的に、東都生協が取り扱う商品以外の農畜水産物や土壌・肥料・飼料についても必要に応じて検査しますが、原則外部委託検査とします。
  • 上記(1)~(3)に使用する機器は、①精密測定機器:ゲルマニウム検出器1台、②簡易測定機器:NaI検出器2台とし、③表面測定機器:サーベイメーター2台については産地等への貸し出し用として運用します。
検査機器特性及び主要検査品目
検査機器 検出限界値 主体検査品目 設置場所
ゲルマニウム検出器(1台) 1Bq/kg程度 生鮮食品(農畜水産物)生鮮食品に近い加工食品 国立センター
NaI検出器(2台) 10Bq/kg程度 加工食品(加工度の高いもの) 国立センター
サーベイメーター(2台) 100Bq/kg程度 産地等への貸し出し用 国立センター

ゲルマニウム半導体核種分析器(Ge検出器)

測定に時間がかかりますが、エネルギー分解能に優れ、多くの核種を高い精度で検出できます。精密測定用の機器です。おもな検査品目は生鮮品(農産物、畜産品、水産品)および生鮮に近い加工食品(牛乳、納豆、漬け物など)、残留基準値が10または50Bq/Kgの食品(水、牛乳、乳児用食品)などです。測定時間4000秒、検出限界値はセシウム134、137それぞれについて1Bq/Kg程度に設定。

セイコーEG&G社製「ゲルマニウム半導体核種分析装置 セイコーEG&G社製「ゲルマニウム半導体核種分析装置

NaI(ヨウ化ナトリウム)検出器

残留放射能の濃度が基準値を超えているかどうかを、多くの検体について短時間で確認する「簡易検査」の用途に向いています。ある検体から一定の濃度を超える放射性物質を検出した場合は、あらためてGe検出器で精密測定をおこない核種別に数値(濃度)を確定させる、といった使い方が一般的です。セシウム134と137を完全に分離し測定することができず、測定値は両核種の合算値となります。おもに加工度の高い加工食品(調理冷凍食品、調味料、菓子類、加工魚介類など)の検査に使用しています。測定時間3600秒、検出限界値はセシウム134と137の合算で10Bq/Kg程度に設定。

NaI(ヨウ化ナトリウム)検出器 NaI(ヨウ化ナトリウム)検出器

サーベイメータ

サーベイメータは、放射性物質または放射線に関する情報を簡便に得ることを目的とした、携帯用の小型の放射線測定器です。おもに産地への貸し出し用として、圃場等における環境中の放射量の測定に使用します。

サーベイメータ サーベイメータ
検査の流れ 検査検体は他のサンプルと混ざらないように、検体ごとに専用の手袋や袋を交換し,器具・容器は徹底的に洗浄します。 検査の流れ 検査検体は他のサンプルと混ざらないように、検体ごとに専用の手袋や袋を交換し,器具・容器は徹底的に洗浄します。
参考:食品衛生法第6条に基づく食品中の放射性物質の暫定規制値(福島第一原発事故発生後~2012年3月) 参考:食品衛生法第6条に基づく食品中の放射性物質の暫定規制値(福島第一原発事故発生後~2012年3月)
食品衛生法
暫定規制値
ベクレル/kg
食品群 放射性ヨウ素 放射性セシウム
(134と137の合算)
1野菜類(根菜・芋類除く)・魚介類 2000
野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他 500
飲料水・牛乳・乳製品 300 200
【乳児向け】飲料水・牛乳・乳製品 100
参考:食品衛生法第11条に基づく食品中の放射性物質の基準値(2012年4月~) 参考:食品衛生法第11条に基づく食品中の放射性物質の基準値(2012年4月~)
食品衛生法
暫定規制値
ベクレル/kg
食品群 放射性セシウム
(134と137の合算)
一般食品 100
牛乳 50
乳児用食品 50
飲料水 10

※放射性ヨウ素は検出しないため設定されていない

参考:残留放射能検査における検出限界値および測定条件について 参考:残留放射能検査における検出限界値および測定条件について

検出器および食品群ごとの検出限界値の設定について、福島第一原発事故発生後から今日にいたるまで、数回変更しています。事故発生当初の混乱期のさなか政府は早急に食品衛生法第6条に基づく食品中の放射性物質の暫定規制値を設定しました。さらに2012年4月に食品衛生法第11条に基づく現在の基準値が設定されることになり、これにともない残留放射能検査における検出限界値の変更をすることになりました。

現在の基準値は食品群としては4区分に、基準値の数値としては3区分となっていますが、東都生協の検査機器はゲルマニウム検出器とNaI検出器の2種で、検出限界値はそれぞれ1ベクレル/kgと10ベクレル/kgとしています。一般的に食品中の安全性に関する基準値と検出限界値および定量限界値については、国際機関であるコーデックス委員会の「食品中の安全性確保に関するコーデックスガイドライン」にて検出限界値は基準値の1/10以下、定量限界値は1/5以下とされています。残留放射能検査に関して行政が公表している検査結果一覧では検出限界値と定量限界値を使い分けず、検出限界値として広報しているのが実情です。 よって東都生協の残留放射能自主検査においても現行基準の1/10を検出限界値としています。基準が10ベクレル/kgと一番厳しい「飲料水」は当然のことながら、50ベクレル/kgの「牛乳」および「乳児用食品」についてもゲルマニウム検出器で検査をします。

組合員の関心の強い東日本を産地とする青果物、畜産品、水産品などの生鮮品および、パンうどんの原料小麦や豆腐の原料大豆などの「原料」についても同様にゲルマニウム検出器で検査をしますが、これら全ての食品は検出限界値を1ベクレル/kgとします。 2台保有しているNaI検出器については、検査対象が上記以外の加工度の高い加工食品となり、基準が一般食品の100ベクレル/kgであることから、検出限界値を10ベクレル/kgとします。

3.品目別検査内容 3.品目別検査内容
  • 野菜、果物は、ゲルマニウム検出器により関東・東北産を中心に検査をおこないます。
  • 肉、牛乳、卵は、定期的な頻度で従来どおりゲルマニウム検出器による検査をおこないます。
  • 米は、新米の時期に取り扱う全産地の全品種の商品をゲルマニウム検出器による検査をおこないます。
  • 水産物は、ゲルマニウム検出器により、2011年3月11日以降の水揚げ原料について長期的な視点でモニタリングをおこないます。
  • 加工品は、以下の様に分類して検査をおこないます。
    • ・生鮮に近い加工食品(漬物、納豆、豆腐、ヨーグルト等)の製品はゲルマニウム検出による検査をおこないます。
    • ・パン類、麺類、豆腐、納豆などの「原料(小麦、大豆など)」は、ゲルマニウム検出器による事前検査をおこないます。
    • ・加工度の高い製品は、NaI検出器による検査をおこないます。
4.検査結果の公開 4.検査結果の公開
  • 検査結果は、原則、毎週更新して、現状どおりホームページで情報提供します。
  • 組合員配布チラシは、毎月検査結果をお知らせします。
  • 検査結果は、原則、産地・メーカーに報告します。
東都生協自主基準を策定しない理由
東都生協は、以下の理由から自主基準の策定をしておりません 東都生協自主基準を策定しない理由
東都生協は、以下の理由から自主基準の策定をしておりません
  • 基準値は国民の安全を守るために、国が責任を持って定め、基準値を超える食品が生産・流通されないように施策を講じるべきものです。2012年、東都生協は国に対して、当時の暫定規制値の見直しを含む要望書を東都生協産直生産者団体協議会と連名で提出しました。
  • 放射性物質は、食品添加物や農薬などと異なり、安全の目安となる1日摂取許容量(ADI)や耐用1日摂取量(TDI)が設定されていません。
  • 放射性物質の人への確率的影響(発癌等)については、より低い数値が安全ですが、これ以下なら大丈夫という数値(閾値(いきち))は示されていません。
  • 世界的に見ても、微量被曝の安全性に関する科学的な知見は少ないため、
    専門家の間でも意見が分かれています。