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2020.02.14

新たな『食料・農業・農村基本計画』に関する意見書

東都生協は農林水産省に「新たな『食料・農業・農村基本計画』に関する意見書」に関する意見を提出しました。

2020年2月12日

農林水産省 大臣官房地方課
地方提案推進室 御中


新たな『食料・農業・農村基本計画』に関する意見書

東都生活協同組合
理事長 風間 与司治


 私たち東都生活協同組合は、東京を中心に24万余の組合員によって組織され、安全・安心な食料を未来にわたって安定的に手にするために、全国の農畜水産業者や製造者とともに事業と運動に取り組んでいる消費者組織です。

 当生協は1973年の設立から、一貫して日本の農業を守り、食料自給率の向上を図ることを目標に掲げ、活動を推進してきています。食の安全・安心、いのちとくらしを脅かす危機や、日本農業の維持が厳しくなる社会情勢のなかで、生産者と直接手を結び、「産直」を産地直送ではなく産地直結と定義し、生産・流通・消費のあり方を問い直す運動として捉え、食卓の食料自給率向上運動の推進、2008年には生産者と消費者が対等の立場に立ち、食とくらしに関する新しい価値を創造する「食の未来づくり運動」の取り組みをスタートさせました。

 2019年は消費税率の引き上げやTPP11の発効、食とくらしに直結する主要農作物種子法廃止、水循環基本法の見直し、水道法改正、ゲノム編集技術を利用して得られた食品などの食品衛生上の取り扱いなど、私たちの「いのちとくらし」に大きな影響を及ぼすさまざまな変化の年となりました。また、台風や豪雨などによる度重なる災害や家畜伝染病の発生は、生産の現場に大きな影響を与え、生産持続が困難となる深刻な状況を引き起こしています。その一方、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが世界的に広がり、2018年12月の国連総会で可決された「小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言」では、世界の食料生産の8割を占める小規模・家族農業の価値を評価し、持続可能な社会への役割が明確化され、「国連 家族農業の10年(2019-2028)」が提起されました。
 また、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、オーガニックや有機JAS、GAP(農業生産工程管理)やアニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理:動物福祉)への消費者の関心も高まっています。
 現在、見直しの議論が進められている新たな「食料・農業・農村基本計画」は、安全・安心な食料の確保、持続可能な日本の農畜水産業、農村地域社会の維持発展に寄与し、子どもたちのいのちとくらしを守り、自信を持って手渡せる食の未来を実現することにつながると考え、以下の意見を申し述べます。

新たな「食料・農業・農村基本計画」に関する意見

≪食の安全、消費者の信頼確保≫
・設立以来、日本農業の維持発展を願う消費者たちが集まり、環境保全農業を学び合い、国産品を食べて応援する活動などを進めているなかで、食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)は、日本で生きていくために必要な計画として、多くの人々が共有する重要性が見えてきました。食料・農業・農村の実態を理解するための情報の発信を強化してください。特に、若者や子どもたちが受け取りやすい発信方法、理解しやすい表現の工夫を求めます。

・近年のゲノム編集食品など、新しい技術の食品への活用や経済連携協定の拡大にともなう輸入食品の増加など、食を取り巻く環境が大きく変化をしているなかで、人々は食の安全・安心に漠然とした不安を抱いています。食の安全に関する事項については、情報公開の徹底とリスクコミュニケーションを求めます。

・新たな経済連携協定の交渉に際して、日本の農畜水産業への打撃、食料の安全性に関わる政策の後退がないように対応してください。また、経済連携協定の拡大にともなって増加する輸入食品の輸出国におけるHACCPによる衛生管理の普及、輸入者への衛生管理指導の徹底、衛生検疫体制の強化、消費者が判別できるよう中食や外食に原料・原産地表示を広げることを求めます。

・消費者と生産者の交流活動の実践では、離れて暮らす消費者と生産者が互いの生活に思いを馳せ、信頼を築き、消費と生産、都市と農村の結びつきを強めています。農業の担い手が不足する現状に対して、日本農業を支援する消費者をもっと増やす重要性を感じています。農村の活性化に大きな役割を果たす消費者と生産者の交流、Webなどを活用した情報発信、欧州で展開しているCSA(地域支援農業)など、消費者が日本農業や農村社会にもっと関わっていく取り組みを後押しする施策の展開を求めます。

≪食料自給率・自給力、食料安全保障≫
・世界の人口増加にともなう食料需要の拡大、気候変動などによる食料生産の不確実性が高まるなかで、日本のカロリーベース自給率は37%に低下しています。国連がSDGsを提唱するなかで、先進国として海外農産物に依存することは望ましいことではありませんし、食料安全保障の視点からも日本の農業生産の増大を図り、持続性を高めることを求めます。

・食料安全保障や食の豊かさ、望ましい食生活などを考えていくためには、それらを実現するための自給率・自給力の数値目標を設定し、意識を高める必要があります。国内での食料安全保障の確立を図るために日本の農業生産を高めるための指標として、自国の大地で食料を確保する自給率目標を設定して努力することを求めます。

・自給率低下の要因のひとつに食料や農業に対する理解不足があることは否めません。学校教育の中に食料自給と農業生産を身近に考える機会を増やすことが必要です。特に、子どもたちが「食べること」を通じて考える機会として保育園、幼稚園、各種学校の給食への国産品の使用や農村での農作業体験に力を入れることを求めます

・食料の安定供給のためには、どこで何をどれだけ生産しているかの総合調整機能を構築する必要があります。また、台風被害など自然災害で物流がストップする、物流に関わる人が減っていることを含めて、生産だけでなく、どう届けるかということも重要な課題として対策を求めます。

≪農業経営、担い手≫
・農業人口の減少や高齢化のなかで、機械化や担い手の育成などにしっかりとした農業予算を確保する必要があります。財政が厳しい現状ではありますが、持続可能な農業は、日本の食料自給と環境保全を維持するために必要不可欠です。

・農業の大規模化や効率化はコスト削減などの利点もありますが、農村人口の減少に拍車をかけ、学校の閉鎖など、農村社会の維持ができない一因となっています。基幹的農業従事者や法人経営体だけでなく、ある程度の規模でも経営ができる農業の将来像を示し、家族農業、中小規模農家の経営維持と継承についての支援強化を求めます。

・持続可能な農業構造を実現するために、国産品の安定供給と価格の安定、農業所得確保に関する制度の強化を求めます。また、そもそも農村に人が居なくなれば農業は成り立ちません。次世代が農業を魅力ある職業だと思えるような施策、担い手を確保するための計画策定を喫緊に進めることを求めます。

≪農村振興、中山間対策≫
・この間、攻めの農業を旗印に農地の集積・集約化、第6次産業化の推進、輸出拡大、スマート農業などを通じた省力化・自動化など、生産性を重視した政策が重点的に進められてきました。しかし、中山間地域や条件不利地域などは、こうした政策から取り残され、生産者の減少や荒廃農地の増加が進み、非常に深刻な状況です。全国の生産者とつながる中で、農業後継者不足の要因の一つに農村地域のコミュニティ維持や生活インフラの確保が困難になっている状況が見えてきました。中山間地域や小規模農家など多様な農家が暮らす農村を持続させるための環境整備と支援を求めます。

≪農地、耕作放棄地対策≫
・農地と生産者をこれ以上減らさないために、消費者が農業、農村を支えていきたいと思えるような理解の促進、農地面積と農業就業者数の減少傾向に歯止めをかける施策を求めます。

・健康長寿の人生100年設計において、定年リタイア人口が増加していきます。農地・耕作放棄地を減少させる対策として、これまでの職場を退職する消費者と農業・農村をつなぎ、労働力として活躍する仕組みを構築する活動を支援することを求めます。

・草地での放牧飼育は、自然を修復しながら生物多様性を高め、耕作放棄地対策となる可能性が考えられます。経済効率優先で輸入に大きく依存する畜産物を、自然と共生する地球環境と調和した草地資源の活用で現状の飼料不足への対応も期待できます。耕作放棄地で草地資源を生産する可能性や有効性を明らかにして推進することを求めます。

≪畜産生産≫
・飼料原料の多くを輸入に依存している国内の畜産経営は、配合飼料価格の上昇により極めて厳しい状況に置かれています。このため、耕種農家との連携による自給可能な国産粗飼料の一層の生産と利用の拡大で、飼料自給率の向上、また、家畜の飼養技術の向上等による生産性の向上を図り、飼料資源をめぐる新たな国際環境に対応できる畜産の生産構造の確立を求めます。

・家畜の飼養管理に重要なのは、施設設備等の充実も必要ですが、それよりも日々の家畜の観察や記録、質の良い飼料や水の給与などで家畜の健康を保ち、快適性に配慮した適切な飼養管理を生産者が意識して実行することです。これらのアニマルウェルフェアの考え方をふまえた家畜の飼養管理の普及、アニマルウェルフェアに配慮した家畜飼養に転換する生産者への補助金制度の整備、消費者や食品流通業者の理解を進展させる情報提供を求めます。

≪環境、技術≫
・台風や豪雨などによる度重なる災害や、鳥獣被害や家畜伝染病の発生は生産者に大きなダメージを与え、離農につながっています。いかに食料の安定供給を図っていくか、災害に強い農業づくりの推進を求めます。

・生物多様性を育む田畑は環境負荷の低減に貢献し、田園の景観は心の癒しとなっています。田畑の自然環境保全を含む多面的機能は農業を営むことで自動的に生じるものではありません。基本計画に、自然環境保全を含む多面的機能発揮の施策を求めます。また、水田の貯蔵機能が果たす防災や減災の効果は重要です。水田保全にむけて米粉の活用や飼料米の栽培技術等の確立、生産の安定と拡大を求めます。

・消費者と生産者が求める食の安全・安心や住み続けることのできる地球環境を守っていく活動を積み上げるなかで、環境保全型農業、有機農業が有効であることを実感しています。多くの生産者が環境保全型農業、有機農業に取り組めるような仕組みづくりや認証取得に必要な費用の支援を求めます。

・適切な農業生産活動を通じて国土環境保全に資するという観点から、環境保全型農業についての技術研究の推進と社会へのエビデンスの発信を求めます。

≪その他≫
・持続可能な生産と消費、地球温暖化対策の推進や地域社会づくりなど、様々なテーマからSDGsの実現に貢献できる施策を盛り込む必要があります。特に、経済、社会、環境の3側面の調和を図るという考え方を基本計画に導入することを求めます。また、自然景観等の地域資源を最大限活用し、環境で地域を元気にする「地域循環共生圏」の構想と、日本の食料・農業・農村の持続的な発展、自然循環機能の増進にもつながる基本計画を適切に結びつけて推進することを求めます。

以上